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一人きりで目を覚まし、あの日に引き摺り戻されそうになるのを振り解くように裕太の部屋を出た。
学生の頃に使っていた自転車を実家の物置から引っ張り出し、海沿いの坂を焦るように走る。
「……釣りしてるかと思った」
防波堤の端から足を投げ出し、ただそこに座っていた白いTシャツの背中をみつけると途端にほっとして、アスファルトの上に隣で腰を下ろす。
裕太は子供の頃から、よくここで釣りをしていた。
「ひさしぶりにしよっか?魚いるかな?」
横顔を覗き込んでそう言うと、裕太は何も答えずにまっすぐ遠くをみつめていた。
「…ね?ゆうくん?」
もう一度言うと、アスファルトの上に置いていた手の上に裕太の手のひらが重なる。
今までに見たことのないほど、大人みたいな、涼しくてでもはっきりと意思を持った目で、裕太の視線の先が私を捕らえた。
それから唇が、重なる。
「……中学生の頃、俺が勝手にキスしたのはAのことが好きだったからだよ。」
息を呑むくらい綺麗で穏やかな表情をした裕太の声が、優しく潮風に漂う。
「それからずっと、今まで、この瞬間にもAのことが好き。空が青いとか、お腹空いたとか髪が伸びるとか……それくらい、俺にとってAを好きってことは、当たり前のことなの」
そっと抱きしめられると、私の髪に触れている裕太の耳からも熱が伝わる。
「めちゃくちゃ好き。好きすぎて…もう……むかつく。もう、嫌い。Aのことなんか、大っ嫌いだわ」
耳元でそう聞こえたかと思うとすぐに身体が離れ、裕太は立ち上がると私の目の前からいなくなった。
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作者名:EM | 作成日時:2021年10月16日 3時