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「……てか、ごめん。こんな時間に」


途端に電話越しのミツの声が心細く聞こえて、つい訊いてしまった。


「ミツ、大丈夫?今ひとり?」


少し間が空いてから、ん、と答えるのが聞こえる。


「Aと何かあった?」

「ないよ。さっきまで一緒に飲んでただけ。玉森の話してたから。ごめんな。おやすみ」

「いや待ってよ」


一方的に切ろうとするからつい声量を上げてしまった。


「何か言いたいこと…あるんでしょ?こんな時間にわざわざかけてきたんだから、ちゃんと言ってよ」


ミツとこんなふうに電話で話すのは久しぶりだ、と、もう一度思った。

こんなふうに、本当のことをお互いに訊いて話したりすることは。


「……うん。」


少しの沈黙のあと、ミツが口を開く。


「あいつのこと、嫌いとか……言うなよ」


全く予想していなかった言葉に、一瞬思考が停止してしまった。


「喧嘩とか、当たり前にするだろうけどさ…、ほら。取り返しつかなくなることだって…あるから」


ミツの言いたかったことを、自分でも驚くほど自然に理解して、勝手に涙がこぼれそうになった。


ミツがAのことを、あいつって言った。

衣月は、もう帰ってこない。


取り返しなんてつかない、その意味を一番よく知っているミツの口から、俺がそう言わせてしまった。言葉にさせてしまった。


俺じゃない。Aだ。Aがそうさせた。


Aのために、ミツが今こうして言葉にしている。痛いはずなのに。


今までのミツだったら、きっとありえなかったはずなのに。


「…ごめん。余計なこと、言ってるよな」


ミツが思う“取り返しのつかないこと”なんて、俺なんかが一ミリも想像することすら許されないはずだった。


ミツは。

ミツは、どれほどの後悔をしてきて、これからもしていかなきゃいけないんだろう。


「……それ、だけ?」


やっとそう言葉を発して、「うん」と答えたミツに「わかったよ。」と返事をするだけで精一杯だった。


「じゃあ。おやすみ」


通話を切って、そういえばと見上げた夜空にはほとんど星が見えなかった。

小さくて、はっきりとは目に映ってくれない星がひとつ、ふたつ。

なんとなくそこに在ることだけを示すように弱々しく煌めいて。



欠けた月を、薄い雲がぼんやりと隠していた。




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作者名:EM | 作成日時:2021年10月16日 3時

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