検索窓
今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:11,549 hit

T ページ16

.






ポケットに手を入れながら飄々と続ける横尾さんに、つい「そうなんだ」と、驚きとも相槌ともいえないような間の抜けた返事をしてしまった。

興味深い人、だな、なんて言ったらいいのかよくわかんないけど、自分の頭の中の少ない語彙を掻き集めたらそんな感想になってしまう。


「そのせいで、なんだろ……自分は薄っぺらい人間関係しか築けないんだってずっとどこかで思ってて。」


そして興味深い、の対象は、わりと好きなほうのカテゴリーに入れられる。


「だけど大学でミツに出会って、なんか…初めて、他人に対して感情を持つようになった。恋愛感情っていうわけではなくてね」

「…恋愛感情じゃないって、なんでわかるの?」

「うーん。恋愛感情持てないから、実際にそれがそうじゃないのかって言われると、まあたしかにそこは何ともいえないね」


そう言いながら横尾さんはやっと俺の顔を見て、笑った。


「今までずっと、上辺だけだった友達との関係も、ミツに出会って、ああ、こういうことなんだって、全部腑に落ちた気がした。」


ミツはナチュラルに人たらし、衣月が前にそう言ってたな。


「ミツに出会ってから、ちゃんと息ができるようになった」


何も考えてないみたいにして、いつのまにか相手の懐に入ってて。

簡単に誰かにとっての大切な存在になってたり、無意識に一生の片想いを背負わせちゃってたり。


「……横尾さんの言ってること、ぜーんぶわかりまーす」


ふふ、と少し俯いて笑うと、潮の匂いの染みついた夜風が前髪を優しく攫っていく。

その心地よさがなんだか可笑しくて、ついつぶやいた。


「俺たちみんな、ミツを前にしたら為す術なし、ってかんじ。無力だね」


おもしろいなあ。昨日までなんにも知らなかった相手と、こんなふうに共通点があって、それはAも同じで。


「ほんとだね。気づいてないし一番なんも考えてないの、本人だけだよね」


ね、と今日初めて会ったばかりの横尾さんと目配せをして、靴先にあたる小さな石たちの気配を感じながら、夜の海沿いを歩くのはいいなと思った。



.

T→←T



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (44 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
157人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:EM | 作成日時:2021年10月16日 3時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。