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ポケットに手を入れながら飄々と続ける横尾さんに、つい「そうなんだ」と、驚きとも相槌ともいえないような間の抜けた返事をしてしまった。
興味深い人、だな、なんて言ったらいいのかよくわかんないけど、自分の頭の中の少ない語彙を掻き集めたらそんな感想になってしまう。
「そのせいで、なんだろ……自分は薄っぺらい人間関係しか築けないんだってずっとどこかで思ってて。」
そして興味深い、の対象は、わりと好きなほうのカテゴリーに入れられる。
「だけど大学でミツに出会って、なんか…初めて、他人に対して感情を持つようになった。恋愛感情っていうわけではなくてね」
「…恋愛感情じゃないって、なんでわかるの?」
「うーん。恋愛感情持てないから、実際にそれがそうじゃないのかって言われると、まあたしかにそこは何ともいえないね」
そう言いながら横尾さんはやっと俺の顔を見て、笑った。
「今までずっと、上辺だけだった友達との関係も、ミツに出会って、ああ、こういうことなんだって、全部腑に落ちた気がした。」
ミツはナチュラルに人たらし、衣月が前にそう言ってたな。
「ミツに出会ってから、ちゃんと息ができるようになった」
何も考えてないみたいにして、いつのまにか相手の懐に入ってて。
簡単に誰かにとっての大切な存在になってたり、無意識に一生の片想いを背負わせちゃってたり。
「……横尾さんの言ってること、ぜーんぶわかりまーす」
ふふ、と少し俯いて笑うと、潮の匂いの染みついた夜風が前髪を優しく攫っていく。
その心地よさがなんだか可笑しくて、ついつぶやいた。
「俺たちみんな、ミツを前にしたら為す術なし、ってかんじ。無力だね」
おもしろいなあ。昨日までなんにも知らなかった相手と、こんなふうに共通点があって、それはAも同じで。
「ほんとだね。気づいてないし一番なんも考えてないの、本人だけだよね」
ね、と今日初めて会ったばかりの横尾さんと目配せをして、靴先にあたる小さな石たちの気配を感じながら、夜の海沿いを歩くのはいいなと思った。
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作者名:EM | 作成日時:2021年10月16日 3時