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居酒屋を出て、酔いを覚まそうかって横尾さんが言って、四人で歩いた。
しばらくすると海の街独特の少し湿った夜風が頬に当たり、いつまでも懐かしく思える匂いが鼻先をかすめる。
真っ暗で黒く静かに、だけど規則的な波音を作りながらそこに佇む水面が目の前に広がる。
海岸線沿いに最近新しく拡張された駐車場から、コンクリートの塀越しに海を眺めた。
高く上に昇る小さな灯りと、海岸に沿ってどこまでも長く伸びていく幹線道路、そこに並ぶ車たちのテールライトや遠くにぽつぽつと映るお店や街灯の夜景。
キラキラと、瞬きを繰り返しながら光っていた。
「…玉森、大丈夫?」
少し先を歩く裕太と横尾さんの背中を見ながら、間隔を空けて隣を歩いていた北山先輩が私に訊いた。
「大丈夫…ですよ。でも、昨日の……今日だから」
躊躇しながらそう言ってしまうと、つい俯く。
「北山、先輩こそ……、」
大丈夫…なんですか?
そう訊こうとして、だけどそれがどれだけ思慮に欠けている質問なのかと自分で気づきながら情けなくなって黙り込み、それでもまた口を開いた。
「裕太……、いつからか衣月先輩のこと、名前で呼ばなくなったんです。」
胸の高さにあるコンクリートの塀に手を置いて、遠くを眺めながら独り言みたいになってしまった。
「それが……裕太なりの、失恋だったのかなって。」
黙ったままでいる北山先輩が、だけどちゃんと聞いてくれている気がして勝手に一人で続けてしまう。
「そうやってちゃんと…衣月先輩への恋を、諦めたのかなって。」
そう気づいていたのに、私は何も気づいていないふりをした。
「裕太はちゃんとしてるから。意外と…優しくて、真面目だから。私は…裕太みたいに…ちゃんと、できない…」
何言ってるんだろう、と、自分で言ったくせに急に恥ずかしくなって隣に立っていた北山先輩に背を向けた。
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作者名:EM | 作成日時:2021年10月16日 3時