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「Aちゃん、大丈夫かな?」
横尾さんが腕時計を見ながら、いきなり席を立ってどこかに行ってしまったAのことを気にかける。
「…食べ過ぎてお腹でも壊したんじゃないすかね」
Aの様子がどこかおかしかった理由なんて、俺には嫌になるほど分かってしまう。
「あのねぇ、女の子のことそんな風に言っちゃだめよ」
「…ごめんなさい。冗談です。」
「ていうか玉森くん、飲むねぇ」
横尾さんに窘められて、もはや何杯目かわからなくなっていたビールを飲み干す。
「Aちゃんの様子見に行ってきてもらえる?」
「…俺がですか?」
「うん。」
ジョッキをテーブルに置くと、ふふ、と勝手に乾いた笑いが漏れてしまった。
「ミツじゃないと、意味ないんだよ」
俺は何をしたって、と、続けて口走ってしまう。
「俺がAに何をしてあげても……ミツじゃなきゃ、だめなんですよ。」
あれ…なんか俺酔っ払ってんのかな?そこまで飲んでないのに。何も食べてなかったからかな…。
頭の中でそう考えながら、それと同時に口が滑って横尾さんとミツに向かって勝手に話してしまう。
「Aは、馬鹿みたいにミツのことを好きなんですよ。ずっと。」
何も言わずにいるミツが、真っ直ぐに俺の目を見ているから逸らさずに返した。
「……代わりなんて…、いない」
ミツにとって、衣月の代わりなんていない。
俺にはAの代わりなんて、いないんだよ。
「ゆうくん?」
Aの声が聞こえて、テーブルに突っ伏した顔を上げた。
「ちょっともう、やだなぁ…飲み過ぎちゃったの…?」
すぐに隣に座ってAが背中を撫でてくれると、いつのまに頼んでくれていたのかミツに水の入ったグラスを渡される。
「Aちゃん、大丈夫?」
「はい、お手洗い…並んじゃって」
横尾さんにそう答えてから、Aが困ったように俺の顔を覗き込んだ。
「裕太、」
「…どこいってたんだよ」
「お手洗いだよ。いいから、お水飲んで?」
「なんで勝手にいなくなんの?」
「わかったから。次はちゃんと言うからね。」
裕太あんまりお酒強くなくて、と、横尾さんとミツに説明するAの手をテーブルの下で握ると、やけに温かくて、Aの方がお酒弱いじゃんって言わないけどそう思った。
ミツがいるから緊張して酔えないんだろうなって思いながら、俺よりも小さい手をぎゅっと握りしめた。
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作者名:EM | 作成日時:2021年10月16日 3時