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「…うわ、最悪」
Aのマンションのロビーに入ると、見覚えのある人物が座っていてつい心の声が出てしまった。
「…あ。Aちゃん、まだ帰って来てないよ」
「知ってますけど」
勿論知らなかったけど、咄嗟にバレバレの嘘をついてしまう。
「一緒に待ちます?」
そう言いながら、向かいの長椅子に視線をやるから促されるようにして黙ってそこに座る。
「藤ヶ谷です。この間はどうも」
「…玉森、です」
余裕のある雰囲気がまた腹立つんだよな…そう思いながら、無理矢理に笑顔を作る。
「Aちゃんのお友達…ですよね。」
なんで勝手に決めつけてんの?ていうかただの友達じゃなくて、幼馴染なんですけど。
心の中でそう言ってみるくせに、実際は「はい」とだけ答えて微笑む。
自分でも、ダサイなって思いながら。
「やっぱり、だと思った」
ふふ、と笑いながら言うから、さすがに「は?」と声が出てしまった。
「あ…いや、Aちゃんの片想いの相手じゃないだろうなって。この前玉森くんと鉢合わせた時にすぐわかったから。」
「どういう意味ですか?」
「…Aちゃんは、誰とでもそういうことする子じゃないよ」
質問の答えになっていないし、突然言われた言葉に身構えてしまう。
まさしく俺がAに問いただしたことへの答えをそのままはっきりとこの人がいきなり口にしたから。
「俺もね、好きな人が……恋人を失くしてて。」
今度は急にそう言って、微笑んだのに寂しくて、瞳が哀しそうに揺れた。
「Aちゃんとは大学で知り合って…、後輩だったんだけど。ずっと好きな人がいるって言っててさ。」
懐かしむように話しながら、優しく笑う。
「Aちゃん、ああいう子だからさ、すぐに仲良くなって。お互いにさ、色んなものを埋め合ってたのかも。なんていうのかな…そういうのって、あるでしょ?」
俺はこの人のことも、この人との間にある、この人とAにしかわからない何かについても、A本人の口から聞いたことなんて今までに一度もなかったのに。
「お互い他に相手はいなかったけど、だけどそれだけで二人が恋人同士になれるわけじゃないってこともお互いにわかってた。」
俺の知らないAを、この人は知っている。
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EM(プロフ) - mgさん» そうだったんですね、嬉しすぎます…!励みになります、ありがとうございます。 (2021年9月19日 2時) (レス) id: 3db90ced5d (このIDを非表示/違反報告)
mg(プロフ) - 私が初めて登録した、お気に入り作者さんはEMさんなんです。また新作を読む事ができて、うれしいです! (2021年9月5日 20時) (レス) id: 4c5f83450d (このIDを非表示/違反報告)
EM(プロフ) - mgさん» またmgさんに読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます! (2021年9月5日 3時) (レス) id: 3db90ced5d (このIDを非表示/違反報告)
mg(プロフ) - 新作、嬉しいです。これから、とっても楽しみです。がんばってください! (2021年9月4日 5時) (レス) id: 4c5f83450d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:EM | 作成日時:2021年9月3日 20時