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「北山…先輩?」




波音に混じり耳に届いた声に振り向くと、潮風にふわりと長い髪が揺れた。


「……ごめん。誰、だっけ?」


先輩、そう言ってるから多分地元の誰かなんだろう、そう思いながら、考えてみるつもりも本当はなかった。


「あ、ごめんなさい…あの、裕太の同級生で、北山先輩の…後輩です」

「裕太……もしかして、玉森?」
「はいっ」

「…タマ、あいつ元気にしてる?」


玉森、そう言われて思い出しながらつい「ふふ」と笑ってしまった。

懐かしいな。元気にしてんのかな。


どうやら俺の後輩らしいその子は「元気です」と答えながら笑って、その瞬間に風がスカートをふわりと揺らす。


「…それ、いいの?」


砂の上なのも気にもしてなさそうに、躊躇いもなく俺の隣に座るからつい訊いてしまった。


「えっ?これ、ですか?」
「…なんか、フワフワしてんのに」


それがなんていうものなのか分からなくて、白くてすっげー軽そうな、薄い生地のフワフワしたスカートの裾に視線をやる。


「…ふわふわっ、て…ふふっ」


一瞬きょとんとした顔で俺を見たかと思えば急に笑い出すから、頭の上にハテナマークが浮かんでしまう。

…なんか俺、変なこと言ったか?


「なに…笑ってんだよ」

「っふふ、ごめん…なさい」
「…いや別に、いーけどさ」

「やっぱり優しいです」

「は?」

「…北山先輩って、優しいです。」


身体ごと俺の方を向いて、頬を撫でるように吹く風が微かに甘い匂いを運んだ。


……違う。

違うんだ。これじゃない。


癖みたいに、またそんなことを考えてしまう自分に嫌気がさす。



「北山先輩のこと、大好きです。」



空が薄くなり、水面と溶け合い始める時間。


「…何、言ってんの」


大好きです、そう言った横顔をみつめながら、遠い昔のことのように思える記憶と意識が混ざり合い、また溺れてしまいそうになる。


「……っごめんなさい」


何度も何度もここに足を運んで、砂の温度も空の色も波の表情も風の匂いも、もう全て憶えてしまっていた。


そこに欠けている、足りないたった一つの存在には、いつまで経っても慣れやしないのに。



「またここに来たら…北山先輩に会えますか?」



俺の質問を無視して、そんなことを訊いてくるからすぐに目を逸らした。


「そういうの…、迷惑だから」


立ち上がり、服についた砂を払おうとするのを思い留まってから歩き出し、少し離れてから砂を払い落とした。



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EM(プロフ) - mgさん» そうだったんですね、嬉しすぎます…!励みになります、ありがとうございます。 (2021年9月19日 2時) (レス) id: 3db90ced5d (このIDを非表示/違反報告)
mg(プロフ) - 私が初めて登録した、お気に入り作者さんはEMさんなんです。また新作を読む事ができて、うれしいです! (2021年9月5日 20時) (レス) id: 4c5f83450d (このIDを非表示/違反報告)
EM(プロフ) - mgさん» またmgさんに読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます! (2021年9月5日 3時) (レス) id: 3db90ced5d (このIDを非表示/違反報告)
mg(プロフ) - 新作、嬉しいです。これから、とっても楽しみです。がんばってください! (2021年9月4日 5時) (レス) id: 4c5f83450d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:EM | 作成日時:2021年9月3日 20時

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