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花火大会以来、藤ヶ谷さんとは数回シフトが被ったけれど、今までと何も変わらない様子だった。
あれは一体何だったんだろう、そう思いながらも、何事もなかったかのように接していられるのならそれで良かった、と思って…いた。
夕方までのシフトが終わり、キッチンを出て更衣室までの少しの通路を歩いていると「A」と後ろから呼び止められる。
「藤ヶ谷、さん?」
振り向いた瞬間に、事務室の中からそのまま腕を引かれたかと思えばドアに身体を押し付けられていた。
「…何もなかったなんて、思ってないよね?」
私の顔の横でドアに手をついた藤ヶ谷さんが、今のこの体勢とはまるでそぐわない優しい声でそう訊くから、咄嗟に答える。
「思って…ない、っです」
近づいてくる唇に、抗うことなく応えてしまう。
「……んっ」
そういえば、こんな所で誰か来たらどうするんだろう、そう不安になって藤ヶ谷さんの肩を叩く。
びくともせずにキスを続ける藤ヶ谷さんに、首を左右に振ってキスを止めようとするけど、まるで身体ごと操られているみたいに、水が流れていくみたいに口付け合うのをやめることができない。
「……太輔っ!」
唇が離れた瞬間に小さく叫ぶと、あっさりと動きを止めた藤ヶ谷さんがにやりと笑った。
「お利口さん。名前で呼んでって、言ったでしょ?」
満足そうに言うと、私の手を取り、藤ヶ谷さんの胸の中に身体を引き寄せられる。
「こないだのことも、謝らないから」
それから「おつかれさまっ」と言いながら事務室を出て行く藤ヶ谷さんの背中をみつめて、ただ呆然と立ち尽くす。
今起きたことを頭の中で整理しようとしながら、五月蝿く音を立てる心臓を押さえてふらふらと更衣室へ向かった。
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作者名:EM | 作成日時:2016年8月16日 2時