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八月に入ったある日、カフェを閉めたあと凛に連絡をして、藤ヶ谷さんと三人で近くのお店で飲むことになった。
「お疲れさまっ」
乾杯をして、ビールを喉に流し込む。
「今日は忙しかった?」
「んーまあまあ混んだけど、夕方はそこまで忙しくなかったよね」
はい、と藤ヶ谷さんに返事をする私を見て、凛が驚いた顔になる。
「あ、そっかA、太輔くんに敬語なんだね」
「うん。上司だからね、一応。」
「…一応ってなに?」
藤ヶ谷さんが笑う。
「仕事してない時は敬語やめてよ」
「うん……、っはい。」
「いや、もうなっちゃってるから」
楽しそうに笑う凛と藤ヶ谷さんを見ていると、疲れも忘れたような気分になる。
「いや、Aヒドいんだよ。私の寝顔撮って、それを私の携帯の待ち受けにしたり」
「そんなこと…するわけ、っふふ」
「…もう数え切れないほど、そんなのばっかり」
ビールを何杯か飲んだところで、昔の話をしていた。
あはははっ、と手を叩いて笑う藤ヶ谷さんを見て、こんな風に笑うんだ、とつい思ってしまう。
「Aちゃんヒドくない?まあ…確かに凛ちゃんの事いじりたくなるのはわかるけど」
「…太輔くんまでっ」
頼んだシャンパンがテーブルに置かれ、グラスに口をつけると甘い香りが鼻に広がる。
「Aちゃんは付き合ってる人いたの?高校生の頃」
一瞬間をあけてしまってから、小さく頷くと藤ヶ谷さんが続けて訊いた。
「どんな人、だったの?」
返事に困って、つい凛の顔を見てしまう。
「どんな、ひと…」
凛は目を伏せてから、私の代わりに真っ直ぐに藤ヶ谷さんを見て言った。
「凄く素敵な人だったよ。Aのこと、大好きだったし」
「どうして…別れちゃったの?」
「九州の大学に行くことになって」
やっと自分で口を開いて言うと、藤ヶ谷さんがそっと微笑みながら返した。
「遠距離は、できないタイプなんだね」
「…振られちゃった、ので」
なるべく冗談みたいに笑って言ってから、それよりさ、と凛に違う話題を振るとすぐに答えてくれる。
視線を感じて、また藤ヶ谷さんの方を見ると、優しい目で笑いながらシャンパングラスに口をつけた。
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作者名:EM | 作成日時:2016年8月16日 2時