検索窓
今日:23 hit、昨日:1 hit、合計:116,192 hit

55 ページ15

.









八月に入ったある日、カフェを閉めたあと凛に連絡をして、藤ヶ谷さんと三人で近くのお店で飲むことになった。



「お疲れさまっ」


乾杯をして、ビールを喉に流し込む。


「今日は忙しかった?」

「んーまあまあ混んだけど、夕方はそこまで忙しくなかったよね」


はい、と藤ヶ谷さんに返事をする私を見て、凛が驚いた顔になる。


「あ、そっかA、太輔くんに敬語なんだね」
「うん。上司だからね、一応。」

「…一応ってなに?」


藤ヶ谷さんが笑う。


「仕事してない時は敬語やめてよ」

「うん……、っはい。」
「いや、もうなっちゃってるから」


楽しそうに笑う凛と藤ヶ谷さんを見ていると、疲れも忘れたような気分になる。


「いや、Aヒドいんだよ。私の寝顔撮って、それを私の携帯の待ち受けにしたり」

「そんなこと…するわけ、っふふ」

「…もう数え切れないほど、そんなのばっかり」


ビールを何杯か飲んだところで、昔の話をしていた。

あはははっ、と手を叩いて笑う藤ヶ谷さんを見て、こんな風に笑うんだ、とつい思ってしまう。


「Aちゃんヒドくない?まあ…確かに凛ちゃんの事いじりたくなるのはわかるけど」

「…太輔くんまでっ」


頼んだシャンパンがテーブルに置かれ、グラスに口をつけると甘い香りが鼻に広がる。


「Aちゃんは付き合ってる人いたの?高校生の頃」


一瞬間をあけてしまってから、小さく頷くと藤ヶ谷さんが続けて訊いた。


「どんな人、だったの?」


返事に困って、つい凛の顔を見てしまう。


「どんな、ひと…」


凛は目を伏せてから、私の代わりに真っ直ぐに藤ヶ谷さんを見て言った。


「凄く素敵な人だったよ。Aのこと、大好きだったし」

「どうして…別れちゃったの?」
「九州の大学に行くことになって」


やっと自分で口を開いて言うと、藤ヶ谷さんがそっと微笑みながら返した。


「遠距離は、できないタイプなんだね」

「…振られちゃった、ので」


なるべく冗談みたいに笑って言ってから、それよりさ、と凛に違う話題を振るとすぐに答えてくれる。

視線を感じて、また藤ヶ谷さんの方を見ると、優しい目で笑いながらシャンパングラスに口をつけた。


.

56→←54



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (143 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
276人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:EM | 作成日時:2016年8月16日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。