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「…ああ。聞いた?太郎ちゃんに」


キッチンの片付けをしながら、藤ヶ谷さんに新しい店舗のことを尋ねた。


「んー、まだAちゃんには言いたくなかったんだけどね。俺、いま余裕ないでしょ?色々とバタバタしちゃっててさ。」


食洗機の扉を開けながら、藤ヶ谷さんが答える。


「だからもう少し落ち着いてから話そうと思ってたの。でもバレちゃったね、なんか、恥ずかしいな」


そう言って、綺麗になったマグカップを棚に並べながら笑う。


「あの…ここに就職した時から、分かっていたんですか?新しいお店を…任せてもらえるって」

「うん。二年前から太郎ちゃんが計画してて、そういう話を聞かされてね。それで、普通のサラリーマンするより、こっちの方が楽しいかなーって」

「…そうだったんですね、すごいなぁ…」

「すごい?なんも凄くないよ」

「そういう思い切った決断を自分でできるのって…、凄いです。」


藤ヶ谷さんは私の顔を見て一瞬動きを止めた後「それより、」と言いながら残りのマグカップをしまった。


「俺が、その為にここに残ったってよく分かったね」


食器を全て片付けた藤ヶ谷さんが、カウンターに面するキッチンから出て来る。

スツールに座る私の背後に回り、カウンターテーブルに両手をついた。


振り返らないけれど、私の背中に藤ヶ谷さんの体がぴったりとくっついてるのを感じる。


「Aちゃんの、そういうとこ好きだよ」


そう言うと少し背伸びをして手はついたまま、カウンターの真上に天井から吊るされている多肉植物の入った小さい鉢に、もう片方の手を伸ばした。


「…これね、水やりは基本しなくて良いんだけど、たまにチェックして弱ってたらお水あげてね」


あ、でもAちゃん届かないから俺がチェックすればいいか、そう笑って鉢を元に戻すと、キッチンを通って事務室へと入って行く。


いとも簡単に縮められてしまう距離感に、さっきから私は何も言えなくなってしまっていた。


藤ヶ谷さんの姿が見えなくなると、思わず溜息が出てしまう。

からかわれてるだけなんだし、いちいち緊張なんてするのはやめなきゃ、そう思いながら一人で首を横に振った。


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作者名:EM | 作成日時:2016年8月16日 2時

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