51 ページ11
.
「…ああ。聞いた?太郎ちゃんに」
キッチンの片付けをしながら、藤ヶ谷さんに新しい店舗のことを尋ねた。
「んー、まだAちゃんには言いたくなかったんだけどね。俺、いま余裕ないでしょ?色々とバタバタしちゃっててさ。」
食洗機の扉を開けながら、藤ヶ谷さんが答える。
「だからもう少し落ち着いてから話そうと思ってたの。でもバレちゃったね、なんか、恥ずかしいな」
そう言って、綺麗になったマグカップを棚に並べながら笑う。
「あの…ここに就職した時から、分かっていたんですか?新しいお店を…任せてもらえるって」
「うん。二年前から太郎ちゃんが計画してて、そういう話を聞かされてね。それで、普通のサラリーマンするより、こっちの方が楽しいかなーって」
「…そうだったんですね、すごいなぁ…」
「すごい?なんも凄くないよ」
「そういう思い切った決断を自分でできるのって…、凄いです。」
藤ヶ谷さんは私の顔を見て一瞬動きを止めた後「それより、」と言いながら残りのマグカップをしまった。
「俺が、その為にここに残ったってよく分かったね」
食器を全て片付けた藤ヶ谷さんが、カウンターに面するキッチンから出て来る。
スツールに座る私の背後に回り、カウンターテーブルに両手をついた。
振り返らないけれど、私の背中に藤ヶ谷さんの体がぴったりとくっついてるのを感じる。
「Aちゃんの、そういうとこ好きだよ」
そう言うと少し背伸びをして手はついたまま、カウンターの真上に天井から吊るされている多肉植物の入った小さい鉢に、もう片方の手を伸ばした。
「…これね、水やりは基本しなくて良いんだけど、たまにチェックして弱ってたらお水あげてね」
あ、でもAちゃん届かないから俺がチェックすればいいか、そう笑って鉢を元に戻すと、キッチンを通って事務室へと入って行く。
いとも簡単に縮められてしまう距離感に、さっきから私は何も言えなくなってしまっていた。
藤ヶ谷さんの姿が見えなくなると、思わず溜息が出てしまう。
からかわれてるだけなんだし、いちいち緊張なんてするのはやめなきゃ、そう思いながら一人で首を横に振った。
.
276人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「Kis-My-Ft2」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:EM | 作成日時:2016年8月16日 2時