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「…社員って言っても、まだ二年くらいしか経ってないんだけどね」
店内にお客さんがいなくなり、カウンターで作業をしながら藤ヶ谷さんと話していた。
「俺も大学卒業後にそのまま。太郎ちゃんにスカウトされたの。だからAちゃんとおんなじ」
そういえば今日会ったばかりの藤ヶ谷さんは、私のことをAちゃんと呼んでいる。
それがなぜなのかは大体想像がつくけれど。
「…あ。今、なんでこの人私のこと知ってるんだろ、気持ちわるーいって思ったでしょ?」
「えっ、いえ、」
「太郎ちゃんに全部聞いてるからだよ」
「…だと、思いました」
「やっぱり気持ち悪いよね、ごめん」
「っいや、思ってないですよ!」
ふふふっ、と笑いながら書類を手に取る藤ヶ谷さんの手元をふと見る。
細い指に、ゴツゴツした指輪。
完全にからかわれてしまっている…、そう思いながら小さく咳払いをした。
「トレーニングっていっても、何から始めていいのかよくわかんないんだよね。とりあえず今日は、顔合わせってことで」
はい、そう答えて、ぼんやりと窓の外を見る。
まだ雨は降り続けていて、雨の粒がしきりに窓を伝い落ちていく。
「Aちゃん?」
「は、はいっ」
「雨、凄いね。今日傘持ってきた?」
「…あ!忘れたっ…」
さっきから雨を眺めてるのに、今日自分が傘を持ってきていないことに今更気がついてしまう。
帰る頃には止むといいけどな…そう思って苦笑いをする。
ふふ、と隣で声がして、藤ヶ谷さんが言った。
「Aちゃんって、思ってた通り。でも、思ってたよりずっと可愛い」
なんでもないようにそう笑って、書類をまとめると事務室に入って行く。
やっぱり、からかわれてる…。
店長のことも太郎ちゃんって呼んでたし、誰にでもあの距離感なんだろうな。
初日にして、不安が押し寄せてくる。
っていっても、研修らしきことは何もしてないよね…、そんなことを考えながら、テーブルに残る食器を片付けた。
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作者名:EM | 作成日時:2016年8月16日 2時