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四年生になってからは授業が殆どないこともあって、一週間の大半はカフェで働いていた。
太輔に初めて会ったのは、その年のちょうど梅雨入りした頃だった。
「Aちゃん、今日ね、他の店舗の社員さんが来て色々とトレーニングしてもらうから」
今日からですか、思わずそう言うと、忙しなく動く店長が答える。
大学卒業後から正社員として働く事に決め、研修が始まることになっていた。
「本当はもう少し早く始めたかったんだけどね、なかなかスケジュールできなくて。彼、いつも来れるわけじゃないから、来れる時に少しずつお願いしようと思って」
そういう事で宜しくね、と店長は慌ただしくお店を出て行ってしまった。
今日帰れるの遅くなりそうだな…、そんなことを考えながら、雨に濡れていく窓をみつめていた。
「…あ、Aちゃん?」
夕方になり外が暗くなってきた頃。
雨のせいか客足も少なく、カウンターの中にある椅子に腰をおろしていた。
「は、はいっ」
急に後ろから声を呼ばれて、思わず立ち上がる。
「藤ヶ谷太輔です。よろしくね」
振り返ると、薄いネイビーのトップスにスキニージーンズ、ベージュのハットを被った男の人が立っていて、私に向かって手を差し出した。
「あの…誰、ですか?」
微笑みを浮かべていたその人は、ふっ、と吹き出して言う。
「ごめんごめん。太郎ちゃんから聞いてない?トレーニングで、来たの」
「太郎ちゃん…?あっ…店長!?」
店長…トレーニング…、頭の中で単語が繋がり、しまった、と思う。
「あああっ、ごめんなさい!あの、社員さんですよね、すっかり忘れてて…」
「んーん、大丈夫。そんな慌てないでよ」
クスクスと口元に手を当てて笑いながら私を見る。
名前何だっけ、今聞いたばかりなのに…そう思っていると、社員さん、が口を開いた。
「じゃ、改めて。藤ヶ谷太輔です。よろしくね。」
差し出された手を今度こそ取って、握手をする。
「あ、芦谷Aです、宜しくお願いします。」
ふふ、と笑いながら私を見るから、つい目をそらしてしまいそうになる。
「…知ってる。」
そんなに可笑しかったかな、そう思いながらも、余りに優しく笑うから、その笑顔にどうしてか胸が騒ついてしまった。
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作者名:EM | 作成日時:2016年8月16日 2時