検索窓
今日:15 hit、昨日:1 hit、合計:116,184 hit

41 ページ1

.









四年生になってからは授業が殆どないこともあって、一週間の大半はカフェで働いていた。


太輔に初めて会ったのは、その年のちょうど梅雨入りした頃だった。






「Aちゃん、今日ね、他の店舗の社員さんが来て色々とトレーニングしてもらうから」


今日からですか、思わずそう言うと、忙しなく動く店長が答える。

大学卒業後から正社員として働く事に決め、研修が始まることになっていた。


「本当はもう少し早く始めたかったんだけどね、なかなかスケジュールできなくて。彼、いつも来れるわけじゃないから、来れる時に少しずつお願いしようと思って」


そういう事で宜しくね、と店長は慌ただしくお店を出て行ってしまった。



今日帰れるの遅くなりそうだな…、そんなことを考えながら、雨に濡れていく窓をみつめていた。







「…あ、Aちゃん?」



夕方になり外が暗くなってきた頃。

雨のせいか客足も少なく、カウンターの中にある椅子に腰をおろしていた。


「は、はいっ」


急に後ろから声を呼ばれて、思わず立ち上がる。


「藤ヶ谷太輔です。よろしくね」


振り返ると、薄いネイビーのトップスにスキニージーンズ、ベージュのハットを被った男の人が立っていて、私に向かって手を差し出した。


「あの…誰、ですか?」


微笑みを浮かべていたその人は、ふっ、と吹き出して言う。


「ごめんごめん。太郎ちゃんから聞いてない?トレーニングで、来たの」

「太郎ちゃん…?あっ…店長!?」


店長…トレーニング…、頭の中で単語が繋がり、しまった、と思う。


「あああっ、ごめんなさい!あの、社員さんですよね、すっかり忘れてて…」

「んーん、大丈夫。そんな慌てないでよ」


クスクスと口元に手を当てて笑いながら私を見る。

名前何だっけ、今聞いたばかりなのに…そう思っていると、社員さん、が口を開いた。


「じゃ、改めて。藤ヶ谷太輔です。よろしくね。」


差し出された手を今度こそ取って、握手をする。


「あ、芦谷Aです、宜しくお願いします。」


ふふ、と笑いながら私を見るから、つい目をそらしてしまいそうになる。


「…知ってる。」


そんなに可笑しかったかな、そう思いながらも、余りに優しく笑うから、その笑顔にどうしてか胸が騒ついてしまった。


.

42→



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (143 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
276人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:EM | 作成日時:2016年8月16日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。