私を許さないでⅢ (ページ5)

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母の日記ページ5

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿私は私の身体が女性になっていくことを素直に喜べないのだ。
それはまた、贅沢な悩みだと思われるだろうがあの女のような女性にはなりたくない。
髪に癖がなくて幸いだった。もしも癖毛だったら耐えられない＿＿＿。

「ねぇ、ママ。ママの悩みって何？」

私、ティアナ・ディゴリーは母にそう問いかける。
すると母は此方を見て微笑み、いつか貴方にも訪れるわ、と言葉を濁した。
私は眉間に皺を寄せて、悩みなんてないしできないと明言した。
母は今度こそ、明るく笑ってまだミルクの香りがする頬にキスをした。

冒頭に戻ろう。
難しい言葉が多かったのでわからないこともたくさんあるけれど、即ち母は母の言う『あの女』というひとが嫌いで、その人に似たくないから大人になりたくないらしいのだ。

この日記の存在を知ったのはつい昨日の事だ。
母の部屋に忍び込むのは得意だし、母もそれを容認していた。
恐らく母は、私も母のアクセサリーやドレスを見たいと思っているらしかったが正確には違う。
母の実家はブラックという名家だった。
勿論、父セドリック・ディゴリーに嫁いでからは純血一族らには会う機会もなく父が闇祓いなこともあって純血貴族に会うことは暗黙の了解で禁じられていた。
名家の令嬢らしく素晴らしい細工の凝ったクローゼットや棚も持ち込んだが、母はそれを何とも思っていないようだった。

その中の一つ、ヴィンテージのクローゼットの裏。
これに気がつくのは母の部屋に忍び込むようになって暫くしたころだった。
気がついたといってもたまたま転んだ拍子に倒れてしまって、手をついたところがお目当ての秘密だっただけなのだけれど。

母らしい、几帳面で端正な文字はまだ見ぬ痛みや苦しみを綴っていた。
首を傾げて見ていたが、何となく母には言ってはいけない。
そんな気がして、私はそっと隠し扉を空のまま閉めた。
それから父が買ってきたお菓子のから箱を幾つか拾ってきて、一番可愛いものにしまった。
日記を熟読することはない。
母の日記を勝手に自分のコレクションにしたことは悪いと思っているが、これも乙女の秘密なのだから。(父はこの様子を見て、私が女の子らしい遊びに目覚めたと勘違いしたらしく執拗にクィディッチをしようと誘ってくるので鬱陶しかった。)

そしてこの日記は次第に忘れられていく。
二度と陽の目を浴びないはずだった。

ティアナ・ディゴリーがスリザリンに組分けられるまでは。