私を許さないでⅢ (ページ3)

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【番外】掠めた恋心Ⅱ ページ3

なにがそんなに面白いのか、ころころと喉を鳴らす彼女を暫く惚けて見ていた。

その鈴のような声に混じって、僕よりもずっと低いテノールが聞こえることに気がついたのは随分と後の事だ。

忍び足で近づき、物陰で様子を窺う。
少しずつ聞こえるようになった会話を聞くために耳を澄ませた。

ちらりと見えたカナリアイエローに眉を寄せる。

ハッフルパフの男と、こんなところで何を話しているんだ？

落ちこぼれの味噌っかすが、その人はお前ごときが話して許される人ではないんだぞ。

喉まで競り上がった言葉は、男の顔を見てスッと胸に落ちた。

嫉妬やら何やらではない、確かにあった感情が心臓に落ちて乾いた音をたてる。

セドリック・ディゴリー

ハッフルパフの人気者。
嫌味と嫉妬で入り交じるスリザリンでも悪評は聞かない優等生。

その顔を見た瞬間に、納得してしまった。

胸を焼き付かせる恋の筈だったのに、全てが受け入れられる気がした。

もう、受け入れている気さえも。

「･････それでね、ロジャーがこう言うんだよ。女の子は喋り上手でクィディッチの得意な男なら夢中になる、だから俺はモテるんだ･･･って。でもその後に誘った女の子にデートを断られていたんだ。」

「あら、それは残念ね。折角“お喋りなクィディッチ選手”の良いところを発揮できる機会だったのに。」

「ロジャーが聞いたら怒るだろうな。“どうしてレムバティに言うんだ！”ってね。」

「はははっ、今のロジャーに似てたわ！」

「本当？困ったな。」

何気ない会話を交わす二人は幸せそうで、楽しげだった。

自分のせいではあるけれど、僕は彼女と話すことすら叶わないのに。

その唇から零れる言葉の一つ一つが到底手には要らないものであると分かっているのに。

半ば呆然と、けれど心の隅で期待していた。
あの人は優しいから、寮関係なく振る舞っている只の友人。

只の友人に違いないと。

「･････セドリック。」

「どうかしたの？」

「･････キスして。」

やめろ、やめてくれ。

僕の恋を、終わらせないで。

お願いだから。

「スカーレット････。」

影が近づき、彼女の細い指がカナリアイエローの裏地を握った。

そっと瞳を閉じると、遠くから見てもわかる程に長い睫毛が伏せられて、思慮深い藍色を隠す。

夢にまで見た光景は、彼女の赤く艶やかな唇にディゴリーのそれが重なって、潰えた。

影は足元で愛を育む様子を映していた。

静かに終わった初恋は、あまりに苦かった。