私を許さないでⅢ (ページ11)

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深淵の入口ページ11

どくりと心臓が鳴った。
不整脈で不規則なそれに、気味の悪さを感じる。
暫く口にしていない味が口に広がっていく感覚。
次第に狭くなっていく酸素の通り道が私を苦しめて、その手を緩めない。
年に一度襲う血の高ぶりが懐かしくて、あの頃に帰りたくなった。
体も心も、本当の意味で若かったあの頃に。
将来の夢は叶ったけれど、それも一夜の夢のようだった。
暫くすれば壊れていくであろう私の理性は、まだ完全に破壊された訳ではない。

「･････苦しいの、セドリック。私を＿＿＿＿＿＿＿＿助けて。」

そう呟いたところで、返ってくるわけでもない返事は安らかな吐息だけ。
隣で眠るセドリックの顔を見て、溜め息をついた。
＿＿＿＿美しい顔。
＿勿論、多少成長は感じるが老けているとは思わない。若いと言われることはよくあるけれど、若すぎる。
そっと彼の顔に手を当てる。
青白い肌。
少しだけ尖った歯。
出会った頃よりも青みを増したグレーの瞳。
伏せられた視線は交わることなく、シーツに移っていった。

私は、何を間違ったのだろうか。
あれは間違ったのだろうか。
彼を、吸血鬼にしたことは。
私の＿＿＿過ちなのだろうか。

「お願いだから････私を、許さないで。」

「だからぁ！！あんたはもっと自分に自信を持ちなさいよ！」

「ジョージアナ五月蠅い。」

「なんですって！もう母さんの手づくりジャム分けてあげないよ！」

「それは困るわ。」

スリザリン寮にそぐわない馬鹿元気な声が、最近の私の目覚ましだ。
私はスリザリン内外で煙たがられている訳だが、運よく同室が幼馴染だった。
母親の勝ち気をそのまま受け継いだ(母曰く)ジョージアナ･フレッチリーとルイス･デイビース。
ジョージアナ･フレッチリーは母の親友、メアリー･ブラットソンとハッフルパフで父の後輩、ジャスティン･フレッチリーの子供だ。
両親は彼女の両親が一緒になるなんて信じられないと驚いていた。
しかし、それに反してルイス･デイビースのことは知っていたらしく分かっていたとばかりににこやかな笑みを浮かべるばかりだった。
二人が此方に気がつく前に身支度をする。
取っ組み合いを始めた二人を置いて部屋を出る。
もう、私は何も怖くない。
幼馴染がいるからでもない。
ポッターに同情されたからでもない。
私はスリザリンなのだから。
私はもう、正義の味方の娘ではない。

遠くに思い出す、あの鋭い眼光は胸の中で確かに息を吹き返していた。