私を許さないでⅢ (ページ2)

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【番外】掠めた恋心ページ2

スカーレット

誰もいない談話室で、ぼそりと呟く。
湖からの揺らめく太陽の光が横切って消えた、それくらいの声の筈だったのに、それは思ったよりも響いた。
櫛を通した髪をかきあげてむしる。
両親に良く似たプラチナブロンドが煌めいて視界を覆うと、僕の世界に蓋をした。

カタッと扉を開く音がした。

視線だけそちらに向けると、黒いショートカットの少女が見えた。
彼女も此方に気がついたようで、何時ものように顔を輝かせて歩み寄ろうとする。
最悪だ。
よりによってパーキンソン。
こんなところを見られるのは嫌だ。
僕は思わず彼女に向かって視線を投げた。
来ないでくれという意思表示に気がついたのか、そこそこ愛嬌のある本来の顔から顰めっ面に皮肉の染み付いたパグ顔に戻る。
そして何かを言いかけたが琴線に触れることを恐れたのか、何も言わずに出ていった。

恋と呼ぶには不純だった。
過去の思い出は箔をつけて美しかったと言えるとして、今は面影もない。
僕が彼等を蔑むように、彼女も彼等を蔑んでいた時分が。

「確かにあったのに･･･」

情けなくも彼女を変えたのは僕ではない。
純血思想を刷り込んだのも、考えたくもない柵から解き放ったのも。
僕ではない。
それだけの力は、僕にはない。

変えたのは誰か、ずっと知りたかった。
会って一言文句を言ってやりたかった。

お前のせいで無茶苦茶だ、と。

その誰かが男でも女でも構わない、彼女を変えた誰かに烏滸がましいと。
たかが友人風情でと。
言ってやりたかったのに。

走れ、この気持ちを伝えなくては。

貴女を慕っています、ずっと前から。

部屋の中で書いては丸め、書いては丸めとくしゃくしゃにした恋文は結局捨てられなくて。
貴女のために見繕ったブローチを贈るとき、自分の名前を書けなくて。
貴女が蔑んでいたのは彼等ではなく自分だと気がついて、自分に愛想が尽きました。

エメラルドグリーンをはためかせて走った。
忌ま忌ましい、いや、本当は羨ましかっただけのファイアボルトにも負けないほどに走った。
運が良いことに快晴で、追い風。
クィディッチ選手のロッカー前まで走った。

絹のような美しい黒髪が風に靡いているのが見えた。
彼女が髪を下ろしているところを見たことがなかったので、何故下ろしているのか気にかかったが、いざ近付くとそんな疑問は吹き飛んだ。
靡く髪が太陽の光に当てられて煌めき、何かが陰になって整った顔にかかっていた。
何よりも＿＿＿＿笑っていた。
くしゃりと鼻に皺を寄せて、歯を見せて、笑っていた。