私を許さないでⅢ (ページ1)

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記憶ページ1

暗い部屋に秒針の音が響く。
それから激しい息遣いと、床が軋む音。
ただただ息が苦しく、地球上の酸素が窒素に押し潰されてしまったのかと錯覚するほどだった。
ごつごつした太い指が呼吸を妨げ、しなやかな白魚のような指が頬を撫でる。
次第に苦しみが重さに変わり、耳が水を入れられたかのように詰まった気がした。
グワングワンと神経が波打ち、上へ上へと血液が襞を無視して逆流する。
ぼんやりとした視界では何も分からなくて、やがて理解することを放棄した。

「お止めください、貴方･･･。」
冷たい風が頬を撫でた。
白いシーツを指で掻き抱くと、ネグリジェから曝け出された脚が眼に入る。
それを軽く撫でるようにしてシーツを剥ぎ、冷たい大理石に裸足のまま足を下ろした。
一歩、また一歩とクローゼットに足を進めると同時にネグリジェのリボンを緩め、そして外した。
胸元で縛ってあるだけのネグリジェだったこともあり、それは白い布と成り果てて足元に落ちる。
朝は好きだ。
この瞬間だけは、身分も、立場も、束縛からも解き放たれている。自由でいられる。
コルセットもアクセサリーもない、只の桃色の肌を自分のためだけに曝せる。
それから今日は何を着ようかとクローゼットを開け、少女のようにはしゃぐのだ。
灰色のクラシカルドレスに身を包み、紺のショールを羽織る。
大人しい服装と思われるけれど、これも朝の間だけだ。
髪を櫛で透かし、指通りよくしてから銀細工のバレッダで留める。
鏡の前でニッコリとする。
今日も理想的な令嬢が微笑んでいる。
それを確認すると笑顔を引っ込めて廊下に出る扉に手を掛けた＿＿＿その時。
かたんと窓越しに透き通る音がした。
何事かと見れば、茶色の丸々としたつぶらな瞳の梟が此方を見つめている。
見覚えのある梟だということに気がついて窓を開ける。
この家に荷物を届けられる人物は、片手で数えるよりも少ない。
「おはよう、アレン。ご苦労様。」
片手で手紙を受け取りながら、蚯蚓型の餌をピンセットで摘まみ口に運んでやる。
“誰かさん”の梟は食通で(恐らく飼い主に似て)偶々手に入った高級餌に味を占めたのか、普通のものは口にしなくなってしまった。
私は手紙を開き、蚯蚓もどきが入った瓶を傍らに置くと手紙を読み始めた。

「･････“親愛なるスカーレット。夏休みはどう過ごしていますか。僕はこの夏、クィディッチの練習ばかりしていて日に焼けました。丘の上だから許しているのだと、散々父にたしなめられるほどにです。