もし間に合わないなら（Na哀話） ページ14
小屋の前で水色の瞳が揺れ、涙があふれ出ているのを気にもせず、なかむは立ち尽くしていた。
勝手知ったる戸口を開け、衝立の奥を覗き込む。
そこにはAが眠っているように見えるが、寝息は聞こえない。
なかむが近づきAの顔に触れる。
ヒヤリとした感触に、なかむは息をのんだ。
「A、寝てるだけだよね。ねぇ、起きて。せっかく
歪な形をした橘の実は、強い力で握りつぶされていた。
ポタリと女性の顔にかかる水は、拭われることもなく床に落ちて染みができる。
また間に合わなかった、と呟かれた言葉は何度目になるだろうか。
Aを抱き上げ、山頂へと登る。
1番見晴らしのいい崖のそばに穴を掘る。
「なんで、いつも間に合わないんだよ、俺の役目ってなんだろう」
盛り上がった土に水をかける。
あっという間に生えてきた橘の木には、白い花が咲き誇っている。
「誰だよ、追憶なんて花言葉つけたやつ。俺が忘れるはずないだろ。何年前からAのこと探してると思ってるんだよ」
まだ小さい木の根元に座り込み、白い花が実に変わる姿を見ていた。
「俺の存在も消えたら、Aの元へ行けたりするのかな。だったら頼むよ、俺の姿も隠してくれよ」
木々の間から差し込む光がとても綺麗で、空にかかる柱に見えた。
この柱を登れば、Aは居てくれるのだろうか。
なかむはそっと目を閉じた。
思い出すのはAのことばかり。
毎回姿を隠すAは、今はどこにいるのだろうか。
物語は始まりへと戻る。
神が生まれる前の宇宙へ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 56人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ミカ | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/elyseeskei1/
作成日時：2022年8月19日 18時
