酒の神（Kr） ページ11
「この村もおしまいだ」
村人の1人が呟いた。
疫病が蔓延した小さな村では、医学に通じる者はいない。
かろうじて無事なのは、神社にいる巫女のAのみだ。
何とかしようと思い、隣村にいる一言で願いを叶えることができる神の元へ遣いを送ったが、帰ってくることは無かった。
どうすればいいのかAは零れそうになる涙を抑えて、山の水を汲みにでかけた。
「俺も手伝おうか？」
「え、誰ですか？」
「きりやんって言います。医学についても詳しいから手伝えること多いと思うよ」
「助けてください」
医学に精通してる人は珍しい。
村の疫病が収まるなら、とAはきりやんに助けを求めた。
山から流れている水をきりやんは手に取り、桶に数杯汲んでいく。
特になんともない、ただの水に見える。
「うん。これくらいでいいかな。1晩時間もらってもいい？」
「あ、はい。神社の方へどうぞ」
2人で桶を持ち山を降りる。
神社の一室をきりやんに貸し、Aは苦しんでいる人の看病へ向かった。
そして翌日、きりやんが桶を持ってやってきた。
桶からは酒の香りがしていた。
1晩で酒を作れるものなのか、とAは不思議に思ったが、きりやん曰く「飲めばたちまち元気になる」と言われたため、一人一人に酒を飲ませていった。
何が起こったのか。
酒を飲んだ村人は、以前にも増して元気になっていく。
「これで大丈夫だね」
「きりやん様、ありがとうございます」
「様とか止めて、俺が勝手に手伝ったことだし」
村人が一同にお礼を言うと、きりやんは照れたように笑った。
「村人の皆が元気になって良かった」とAは安心したと同時に、きりやんに向き直り村の代表として、きりやんにお礼をしたいと述べる。
きりやんはいらないと断ったが、何かしないと示しがつかないと懇願された。
「じゃあ、この神社で俺を置いて欲しいんだけど、俺、行き場所なくってさ」
「そんな事で良ければ、ここの神社に居てください。他にはありますか？」
「じゃあ、さっきのお酒、俺も飲みたいなって」
「作るのに夢中で自分の分忘れてたわ」と笑っているきりやんに、Aはどうぞ。と残っている酒を渡した。
一気に飲み干された酒。
止まらないきりやんの会話に村人は驚いたが、久々に楽しい時間を過ごすことができた。
「高天原からずっとAを見てたんだけどさ、泣きそうな顔しててさ、こうクるものがあったわ」
沢山の爆弾発言は、酒の席でのご愛嬌だと思うことにした。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 56人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ミカ | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/elyseeskei1/
作成日時：2022年8月19日 18時
