炎ノ針子【弐】

告白-1 ページ6

「ーーーで、ーーーーだったんですよ」
「へー、そうなんですか。大変でしたね」

さて、この話は何回目かしら？
先程から目の前のこの男はピーチクパーチクと自身の苦労話を延々と聞かせてくる。
もう内容すら真面目に聞くつもりのない私は笑顔で右から左へと聞き流している。
流石に疲れてきたし、帰りたいな…。
出されるご飯は勿論美味しいし、景色だって最高に良い。
でも、それでも、ご飯が味気無く感じ、景色も楽しめないでいる私がいた。
本当に苦痛な時間だ。

「Aさん？」
「あ、すみません！ついお外の景色に見とれてしまって…」
「確かに、見事な桜ですよね。目を奪われるのも分かります。まぁ、でもAさんの方が美しいですがね」
「はははは…またご冗談を……」

さっっっっっっっむ！！！！！！
何が「Aさんの方が美しいですがね」よ！もしかしてこの人、これで口説いてるつもりなのかしら？
無いわ〜本当にお断りだわ。

「冗談ではありません！僕はA呉服を一人で切り盛りするAさんに感動しました！更にはその確かな腕、美しいお顔立ち…全てが全て僕を惹き付けて止まないのです！」
「はぁ…」
「Aさん！将来絶対に苦労させません！なので、あんな場所で暮らすのなんて止めて、僕と結婚を前提としたお付き合いをしてくれませんか？絶対に幸せにします。」
「………あんな場所…？」
「ええ！あんな原国主義者の集まった野蛮な場所なんて貴女には似合いません！貴女には古めかしい和服よりも今を輝く洋服が似合う」

そう言い切り、さぁ僕の手を取っ手ください。と言う男を私は笑顔で見下す。
こいつは、浅草を…あんなにも優しい人達が住む素敵な浅草を…貶した！
私は男の手を払い、立ち上がる。
男は何が起きたのか理解できていないらしい。とても間抜けな顔をしている。

「A、さん…？」
「お話は以上ですか？でしたら私はお暇させていただきます」
「何を、そんな…！」
「仮にも私が大事に思い守護する場所です。その様に貶されますと、流石に不快です」
「そ、その件に関しては謝罪します！ですが、どうか僕とのお付き合いだけは…！」
「お断りいたします」

私は笑顔でそう、言い切った。

告白-2→←夕凪

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す