昔の話-5 ページ50
「Aちゃん、お待たせ。椿の花と桔梗の花ね」
花江さんが売り場から戻ってきた。
手には新聞紙に巻かれた花を持って。新聞紙の端から薄い紫色の花弁が見えた。
私は初めて聞いた恐らく母様が好きなのであろう花の名を復唱する。
「桔梗…?それが母様の好きなお花なのですか?」
「うーん…厳密に言うなら少し違うかな?伊織ちゃんは紫色のお花が好きだったの」
「紫色の?」
「そう。伊織ちゃんは紫色が大好きでAに嫁いで紫の炎を使えるようになったのを凄く喜んでいたわ。でも……」
花江さんは顔を曇らせ一旦言葉を切ると、すっと私に顔を寄せ囁くように言った。
まるで墓場まで持っていかなくてはいけない秘密を打ち明けるように。
「伊織ちゃんは対外的には紫の炎を使えるようになったのは嫁いだ後になってるけど、本当は小さい時から使えたの」
「それって…」
「私に詳しいことは分からない。でも、伊織ちゃんは発火能力に目覚めたその時から紫の炎を使えたの。私は運命だと思ったわ。でも皆はそうは思わなかったみたい…特に楓さんは…」
「お婆様は違ったのですね」
私がそう言うと、花江さんは重く頷いた。
楓はお婆様の名前だ。お婆様は生前、母様にきつく当たっていたし、一番母様のこと。嫌っていたようにも思える。
特に母様が何かをしたわけではなさそうだったが…単なる嫌悪かそれとも…。
「だからかしら?私、とてもよく印象に残っているの。伊織ちゃんの葬儀の時、楓さんが言ったあの言葉が」
「『こんな私をお母さんと呼んでくれた』ですよね」
「そう。義理の母なのに本当の母のように呼んでくれたってことなんだと思うけど…何だろう?違和感があって…」
「今となってはお婆様も故人なので真相は分かりませんが…ありがとうございます。話してくださって」
「いいえ。何だかややこしい話をしてしまってごめんなさいね」
「いえ。母様のことが分かって嬉しかったです」
私は花江さんに向かってにこりと笑った。
花江さんも私が笑ったことに安心したのか、伊織ちゃんによろしくね。と言って、花を手渡してくれた。
私は受け取り代金を払うと、一礼して紅と一緒に店を後にした。
紅も何か先程の話で思うところがあったのか、黙って考え込んでいる。
私たちは無言で浅草の中でも一番大きい墓地へ足を向けた。
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颯(プロフ) - カニカマさん» 間違った読みで覚えてしまっていたみたいでお恥ずかしい限りです。現在は私生活が忙しく、趣味も執筆も妄想も捗らず、歯がゆい思いをしているのですが、いろいろ落ち着きましたらまたゆっくりマイペースに書いていきたいと思います。この度は誠にありがとうございました (2020年12月25日 0時) (レス) id: 0be6f2aa57 (このIDを非表示/違反報告)
颯(プロフ) - カニカマさん» 初めまして。誤字のご報告、誠にありがとうございます。また、お返事が遅くなり大変申し訳ありません。ご指摘頂きました鬼灯ですが、「ほおずき」に先程全て修正いたしました。とても助かりました。本当にありがとうございます!携帯の予測変換で変換していた為、 (2020年12月25日 0時) (レス) id: 0be6f2aa57 (このIDを非表示/違反報告)
カニカマ(プロフ) - いつも楽しく拝読させていただいております。これからもご活躍を切にお祈りしております。 (2020年11月14日 9時) (レス) id: aef0ed3227 (このIDを非表示/違反報告)
カニカマ(プロフ) - 題名で漢字変換もされており、文章でも繰り返し用いられているので「わざとかな?」とも思ったのですが、「変換できなくて『鬼』と『灯』で分けて変換してるという可能性もあるのでは」と思い至り、報告させて戴きました。 (2020年11月14日 9時) (レス) id: aef0ed3227 (このIDを非表示/違反報告)
カニカマ(プロフ) - 炎ノ針子【弍】『鬼灯-1』夕夏の台詞の上から二行目に当たる文章の中で「ほうずき」とありますが、正しくは「ほおずき」です。 (2020年11月14日 9時) (レス) id: aef0ed3227 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:颯 | 作成日時:2019年11月12日 17時