炎ノ針子【弐】

火ノ華-3 ページ25

「あら、貴女のその浴衣すっごく綺麗！」

紅が町の人たちと話していると、とある女性の方が話し掛けてきた。
良く見ると、うちの常連の方だった。
私は法被を軽くずらし顔を覗かせると会釈した。

「あら！Aちゃんじゃない！どうしたの？そんなの被って」
「紅が被っとけって…そんなに不細工ですかね…？」
「何を言ってるの！逆よ逆！すっごく別嬪になって〜！ふふふ。紅丸ちゃんったら〜気持ちは分かるけど。あ、この浴衣、Aちゃんの新作？」
「実は弟子が作ってくれたんです！」
「嗚呼、あの新しく入った皇国から来た女の子？」
「はい。夕夏っていうんですけど…」
「そうそう。そんな名前だったわ！でも凄いわね！このデザインいいわ！」

常連さんが夕夏の作った浴衣を誉めてくれる。
私は顔を緩めながらそうでしょ、そうでしょうとも！と自慢をしていると、何処から話を聞き付けたのか、いつも店に遊びに来てくださる娘さんやお母さん方に囲まれてしまった。
男の目はしっかりと防いであげるから、今は外しときなさい。暑いでしょう？と誰かが法被を取ってくれた。

「それにしても、夕夏ちゃんって確か、一時期浅草に出入りしてたあのいけすかない男の妹なんでしょう？」
「嗚呼、私も最初は心配だったんだけどね、実際話してみたら全くの杞憂だったわよ！」
「寧ろ本当に兄妹なの？ってくらい！夕夏ちゃん良い子よね〜」
「分かる！センスは良いし、いつもニコニコしてるし！」
「兄貴の方は何か見下した感があって本当に嫌だったけど、夕夏ちゃんは寧ろ謙虚よね〜」
「聞いた話によると、お家と絶縁して浅草に来たそうよ」
「「まぁ！そうなの！？」」

プチ井戸端会議になってしまった。
それにしても私が口を挟まなくても話が進んでいく様が少し面白い。
私は皆が話す、夕夏のことや今年の浴衣について耳を傾けた。中にはこういう柄が欲しかった、やこの色が、といろいろ改善や次に活かせそうなことも話してくれるので、こういう場は非常に有り難い。
私が必死に聞き耳を立てていると、ぽんっと頭に手を置かれた。

火ノ華-4→←火ノ華-2

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す