炎ノ針子【弐】

初夏 ページ13

梅雨が開け、徐々に日が長く暑くなってきたこの頃。
A呉服は何とか結婚式シーズンを乗り切り、次は夏の繁忙期に向けて打ち合わせをしていました。

「いやぁ…本当に師匠の服大人気ですね。私もビックリするくらい依頼が来るもんだから、もう目の前にジグザグの縫い目が見えますよ〜」
「私もまさかあんなに繁盛するとは思わなくて…本当に一人だったら捌けなかったよ…ありがとう、夕夏」
「いえいえ！私の方こそ良い経験になりました！それに師匠の考えたレースの図面が楽しすぎて私もレース編みはまっちゃいました！しかも自分の作ったレースがベールに使われた時なんて、本当に感動ものでしたよ！」

あれはやばかった！と夕夏は思い出したのか、少し涙ぐんでいる。可愛い子だ。
夕夏はいざ一緒に仕事をしてみると勉強熱心で努力を怠らず、教えたことをきちんと吸収するので、私も教えていて楽しくなった。
それに夕夏は柔軟性が高く、今まで自分が行っていた縫い方でなくても文句を言わずに、分かりました！とその通りに縫ってくれるのでとても助かっている。
たまに、自由な発想を活かし、私が考え付かないようなことも提案してくれるので、私も良い刺激を貰っている。

「これからの浅草は夏祭りシーズンになるから、とにかく浴衣が良く売れるようになるの。どのお店も様々なタイプの浴衣を欲しがるし、勿論オーダーも入ってくるから、気を引き締めて頑張りましょう」
「はい！はー次は遂に和服か〜！和服の縫い方って洋服と違うから、私も今から自分の服でいっぱい練習します！」
「うん。頑張ってね。あ、でも何か思い付いたら発案してほしいかも。夕夏のその郷に入ったら郷に従えっていうのは素敵だと思うし、実際夕夏が初めて浅草に来たとき着物を着ていたからこそ、紺兄も夕夏を評価し推してくれたんだけど…」
「え、そうだったんですか！？私としては師匠の所に居座る気満々でしたし、自分も浅草の民になる！って心境だったからなんですけど…」
「普通はそうならないんだって」
「そうなんですか？」
「そういうものなの。とにかく！そこも素敵だけど、夕夏のアイディアだって取り入れていきたいから、きちんと何か閃いたら教えてね」

私が頼りにしてるよ。と言い、夕夏の頭を撫でると夕夏はとても嬉しそうに笑い、元気に返事をしてくれた。
さて、今年の夏も忙しくなりそうだ…。

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