朝 ページ8
翌朝早くにAは目を覚ました。
朝日の昇るころに起きたのは何年ぶりだろうか。布団から静かに起き上がると、長い髪を後ろへ払った。寝すぎたせいで頭の中身が重い。
凛月はまだすやすやと眠っていた。
まるで子供のようだ。昨日見た吸血鬼の影はない。
寝顔の可愛らしさに、Aは我知らず顔を綻ばせた。
ベッドから立ち上がると、足音を忍ばせて部屋から出た。この時間はまだ使用人たちも寝ていた。屋敷の外では、もう一日が始まっているというのに。
Aは着替えを済ませると自ら食事の支度をした。
とはいえ朝はパンと紅茶だけだ。その朝食も、この家では普段はとらないらしい。
自分の荷物も持った事のなさそうに見える彼女の指だが、一通りのことは教えこまれているし、着替えだって自分でできるものは自分でする。
優しい色味の薔薇色のドレスを纏った彼女は窓から見える朝の庭の景色を独り占めしながら、のんびりと朝食をとった。
異国の紅い花の描かれたティーカップに少し砂糖を多めに入れたミルクティー。
朝食を済ませたAは、パラパラと、ある書物に目を通していた。
全て手書きの文章は、さらりさらりと流れるような筆跡で、書くというより描くという感じを受けた。
ところどころ乾ききらないインクが引っ張られた跡がある。
Aが目を通していたのは、領内での『ルール』だ。領主が定めたこの領内でのみ通じる『ルール』が、記されている。
例えば盗みをはたらいた者にはどんな罰を与えるか、とか、結婚する際には領主に申し出なければならない、とか。
大体の部分は代々のものを引き継いでいるのだろうけれど、父親の――自分の家の領には一度も行ったことのない彼女は、地方の領がどうなっているかなど、知らないのだ。
一通り目を通し終える頃には、使用人たちが起きてきて、Aの姿を見て少し驚いたように挨拶をした。
Aは裏庭にある馬舎へ向かった。
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さなえ(プロフ) - フラッペさん» コメントありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。細かいところにこだわって書いてみました。 (2018年8月18日 16時) (レス) id: b33fb32224 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - お話の内容が濃くて私的には面白い物語でした。こういう細かな文章が好きで、なんか一つ一つに感情がこもっているというか……まぁ、とにかく良い話でした。 (2018年8月16日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さなえ@Love伊織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeHome/
作成日時:2017年7月29日 16時