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これは中途半端なAに対する、泉さんのささやかな仕返しだ、とAは思った。
もォ、どうしてそんなことしたのよォ、などと言いながら部屋から出られないAのもとへ、心配したお姉ちゃんが様子を見に来てくれた。
少しでも食べなさいよ、と朝食のパンを渡してくれる。
「ありがとう」
いいのよ。Aが落ち込んでるなんて珍しいもの。たまにはお姉ちゃんに甘えていいのよ。
底抜けに明るい笑顔が頼もしい。
いつも甘えてばっかりで申し訳ない。
泉ちゃんも意地悪ねェ。これくらいで逃がす気はないってことかしら。ほんっと、素直じゃないんだから。
とお姉ちゃんはケラケラと笑った。お姉ちゃんも軍人だから、泉さんのことはよく知っているみたいで、前々から話は聞いていた。
「泉さんのことが嫌なんじゃないの。お姉ちゃんの言うように優しいし、素敵な人よ。むしろ、私に声をかけてくださって光栄だわ。嫌いになんてなれない」
嵐はAの言葉へ耳を傾ける。
「でも、それって、私の意志なのかな、って」
Aは膝の上で手を組みなおした。
白魚のような潤いは、嵐の指先にはない女性らしさだ。
嵐は心の中でため息をついた。妹も、そんなことを考える年ごろか、と。
これだから早く結婚させてしまえばいいと、言っていたのに。気づく前に、考える前に。
お姉様が反対するものだから。
ひどいわよねェ、自分が一番、Aのつらさを知っているくせに。
そのお姉様は、今はこの屋敷にいない。
「A」
嵐はあやすように厚い胸板に妹を抱きよせて頭を撫でてやる。
絹のように柔らかい髪が嵐の乾いた指の間を滑る。
『修道院』から戻ってきた妹の体はすっかり大人になっていた。嵐がどうやったって手に入れられない柔らかさ、みずみずしさを持っていた。神様に恵まれた女の子だから。けれど心はずっと綺麗なまま、体だけが成長した。
(このあたしが嫉妬なんて、ほかの人には絶対にしないし、悔しいけれど、心の底から羨ましかったわ)
「お姉ちゃん……」
ああ、如何か花よ、咲かないで。
無垢で、何も知らない蕾のまま、ずっとアタシのかわいい妹でいればいいのに。
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さなえ(プロフ) - フラッペさん» コメントありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。細かいところにこだわって書いてみました。 (2018年8月18日 16時) (
レス) id: b33fb32224 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - お話の内容が濃くて私的には面白い物語でした。こういう細かな文章が好きで、なんか一つ一つに感情がこもっているというか……まぁ、とにかく良い話でした。 (2018年8月16日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さなえ@Ｌｏｖｅ伊織 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeHome/
作成日時：2017年7月29日 16時
