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「静まれ！ 領主様のお通りであるぞ」
藤原さんは太い声で言った。声は決して大きくないのに、夕暮れの農村によく通った。
どっかの貴公子なら「騒ぎすぎだよ〜？ 家畜ども〜」などと自ら飛び出していきそうな状況だ。
ざっと20ほどの頭が一斉に声の主に向いたのを遠巻きに見ながら、凛月は歩くよ、と後ろの客人に伝えてから馬を歩かせた。
彼らが領民の前に行く頃には、騒ぎを起こしていた20の頭は並んでいた。一つだけ、動けなくなっている者がいるが、それは仕方がない。
「あー、いいよそれ取って」
凛月が好奇心を必死で押さえ込んでいるAの顔を覆っていた布を剥がすと、Aはようやく村を見ることができた。
Aはキョロキョロと見渡すこともせず、見るべきものをじっと見ていた。
凛月は彼女がそうするのを知っていて目隠しをとってやったのだ。
「村長、事情を説明して」
凛月がそう言うと、年老いた白髪の男が長い口ひげを動かした。
「はい、この者は人を殺したのでございます」
死体のように転がっている痣だらけの男は意識がなく、ぶらりと落ちた腕は通常の成人の男のそれより随分と頼りない。
栄養が足りずに身体を酷使しているせいなのか、細くて細くて、頼りない。見るに無惨な姿。
貧乏くさい、精力のない血の匂いがする。
「それは本当に彼がやったの？」
「ええ、村の子等が２人、この者が夜にあの家に入るのを見たそうで」
翌日家主の男性の首を絞められた遺体が見つかったと。殺された男性は容疑者の男を酷使していた雇い主。動機も十分だ。
「へえー、で、その子供っていうのは……」
「あちらに」
老人は骨ばった手で、母親の手を握っている子供たちを示した。
凛月は丁寧に磨かれたルビーのような瞳にじっとりとその子供2人を映す。
歳は12歳ほどの兄と、歳の近い妹といったところだろうか。
彼らは無遠慮に見つめられて、母親の手をぎゅっと握った。それでも、ぐっと堪えて真っ直ぐ立っている。
無邪気で無知な人の子は見ればすぐに何を考えているかなんてわかってしまう。
愚かだ。どいつもこいつも、愚かで、美しい。
「その母親を捕らえて」
「はっ、はい」
凛月は目の前にいた中年の、やせ細ったネズミのような男に命じた。彼は命令に従って女の太い手首をぎりっと後ろで縛って、凛月の前へ突き出した。
女はぎりっと睨むように緑色の目を凛月に向けた。覚悟を決めた女の目は鋭くもあった。
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さなえ(プロフ) - フラッペさん» コメントありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。細かいところにこだわって書いてみました。 (2018年8月18日 16時) (
レス) id: b33fb32224 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - お話の内容が濃くて私的には面白い物語でした。こういう細かな文章が好きで、なんか一つ一つに感情がこもっているというか……まぁ、とにかく良い話でした。 (2018年8月16日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さなえ@Ｌｏｖｅ伊織 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeHome/
作成日時：2017年7月29日 16時
