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私の方に1度も視線を向けないまま
真っ直ぐ前を見て険しい顔をしている藤ヶ谷さん

彼の視線の先には
あの日、あそこで見かけた彼女

腰くらいまである長い髪の毛を下ろしていて
雰囲気が違うけれど
見間違うわけない

キュッと彼の腕に抱きつく力を強めた



「か、過去なんです!」

「は?」

「過去の話なんです。ね、宮田くん!」

「え?え??」

「私もう帰るので、マスター、チェックで」



バタバタと荷物をまとめ
お金をカウンターに置いてこちらへ向かってくる彼女

藤ヶ谷さんは依然として眉間に皺を寄せた彼女を見つめていて
寄り添っているはずの私には見向きもしない


私とは反対側
彼女が足早に彼の横を抜けようとした時
藤ヶ谷さんがパッと手首を掴んだ



「離してください…」

「どういうつもりであんな事いったんだよ」

「い、いたい…」



ああ、北山さんの言う通りじゃん



「は、離してください」

「答えろよ!!」



彼の怒鳴り声に思わず目を瞑る
そっと目を開けて彼を見上げるけれど
やっぱり目線は合わなくて
本当に辛くなる



「藤ヶ谷さん、彼女さんが、見てます」



そんな彼女の声にハッとしたのか
藤ヶ谷さんは私を見つめ
視線を自身の手に移したあと
掴んでいた手首をそっと離した

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作者名:ゆき | 作成日時:2023年6月18日 18時

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