甘ったるい彼等④【短編集】(雪男) (ページ34)

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you side

『うわぁぁ！ねぇ！ヤバイ！！！！』

「なにー？
　あぁ、さっきお薬撒いたから明日には効くよ」

私のプランターに寄ってきてしまった小さな虫たちを見て
朝からきゃーきゃー騒いでいる翔太くん。

「やっぱりサヨナラしよっか？」

『……いや、それはいい』

「ふふ、うん、ありがとう」

虫が出る度にとんでもなく大きな反応をするから何度も捨てようか？と尋ねるのだけど、それには頑なに頷かない彼

私の大切なものは俺も大事にしたいからと言った言葉を忠実に
守ろうとしてくれているのが嬉しくて、返事は分かっているのに何度も聞いてしまう私は欲しがりだ。

.

『これ、ほんとに効くんだよな…？』

撒布した殺虫剤とにらめっこする翔太くんの隣にしゃがみこむと
ん？と優しい顔で振り向いてくれるから、その形の良い唇に自分のを押し当てる。

『どした？』

「幸せだなぁって」

『おぉ』

「死ぬまで一緒に生きてくれるんだもんね？」

『ふはっ、それほんっと気に入ってんな』

いつかの自分の決め台詞に照れてそっぽを向いてしまう彼に「違うの？」と欲しがれば、『違くないけど』と小指を差し出してくれるからそれ同士を絡めてお約束の言葉を交わす。

『ハリセンボンのーます』

「え、お魚のイントネーションじゃん」

『ハリセンボンだろ？』

「あんなの丸飲みできないよ。針、千本です」

『はぁ？うそつけ！』

「嘘じゃありませーん、調べてみなよ」

『ぇ、ガチじゃん…針千本は鬼畜だな』と苦い顔をしている翔太くんを見て、私たちにはどちらも必要無いけどなと思う。

嘘偽りの無い笑顔で笑えるようになったのも
大切にされるという本当の幸せに気付けたのも
全部全部翔太くんのお陰なのだから。

私がこの約束を破る可能性はゼロだし
もらってばかりでどんどん欲張りになる私を見て嬉しそうな顔をする彼もきっとゼロだろう

なら
あとは神様が命を別つときまで二人でこの約束を守り抜くだけ

『「ゆーびきった！」』

Fin.