4.思い出の場所に呼ばれる話 ページ6
「姉ちゃん…どっか行くのか?」
私の隣で歯を磨く凛にそう問われる。私は櫛で髪をときながら、凛に答えた。
「うん。友達とカフェ行ってくる。積もる話もたくさんあるので」
もちろん嘘だ。友達はみんな受験勉強で忙しいし、この時期にカフェへ誘って遊ぶほど私も馬鹿じゃない。
だけど、今の凛と冴がもしかしたら関係あるかもしれないから。だから、あえて冴の名前は出さないでおく。
今の彼は何が地雷か分からないから。とにかく優しく接するよりほかない。
私の答えに不服そうな凛の顔が鏡越しに見えて、フッと笑う。
「大丈夫だから。夕方には帰ってくるよ」
「…ん」
納得はいってなさそうだけど、今の凛なら家に留守番させても大丈夫そうだ。
私は凛に「行ってくる」と伝え、カバン片手に家を出た。
「えっと…」
スマホの地図を頼りに冴に指定された場所へと向かう。
昨日、雪が降っていたからか肌寒く感じた。
道をあっちこっち行きながら無事、冴が指定した場所へ着くことが出来た。
「……ここって」
地図を見たときに薄々勘づいてはいた。
今や世界の糸師冴だ。そこら辺の店じゃ顔バレして大騒ぎだろう。だから、予約を取れるようなお店だと思っていたのだが――…。
「…おぉ。懐かしい」
ギーギーなるブランコに座って試しにこいでみる。
錆びまくりで今にも壊れてしまいそうだが、そのスリルが何だか面白くて、冴が来るまでひたすらブランコをこいでおこうかな、なんてアホなことも考えた。
ブランコからおりて、ぐるりと周りを見回す。
この公園は、よく私たち糸師三姉弟が来ていた公園だ。
凛がサッカーを始めるまでは私と凛で冴の練習が終わるまでひたすら遊んでいた。
「……懐かしい」
もう一度、同じ言葉を呟く。
公園の遊具は、やはり昔よりかはボロボロになっていて壊れそうになっているが遊具の配置は一つも変わっていない。私たちと同じように歳をとっているくせに中身は変わっていないとは。何だか羨ましい気もする。
「……遊具相手に何考えてんだろ」
カバンを肩へとかけ直して――ふと、前を向く。
ザクザクと砂を踏みしめる音が聞こえたから。
――…思い出の公園に、ふたり。
「……久しぶりだね。冴」
そう言うと冴はゆっくりと顔を上げて、彼のその綺麗な翡翠色の瞳に私を映した。
静かな公園にヒューヒューと風が吹く。
やはり昨日の雪の影響もあってか、頬を通る風が冷たい。
「……久しぶりだな。A」
彼の瞳が、揺らいでいた。
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湊(プロフ) - もちうささん» もちうささん、コメントありがとうございます!これからもふたつのルートにご注目ください! (6月8日 19時) (レス) id: 8e39c25e39 (このIDを非表示/違反報告)
もちうさ - 凛ルートと凪ルートがありますね!凛君推しなので結婚とか出来なくても事実婚なら出来ますね! (6月8日 13時) (レス) @page34 id: c2ca67a91e (このIDを非表示/違反報告)
湊(プロフ) - アルです!\(●°ω°●)/さん» アルです!\(●°ω°●)/さん、コメントありがとうございます!凪は私的にも好きなキャラクターなのでどんどん活躍させていきたいと思っています! (5月28日 1時) (レス) id: 8e39c25e39 (このIDを非表示/違反報告)
アルです!\(●°ω°●)/(プロフ) - そういえば糸師兄弟と凪は神奈川県出身だったなぁ…凪登場ありがとうございます! (5月28日 0時) (レス) @page17 id: f6a6e363df (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:湊 | 作成日時:2023年5月19日 12時