41.ホワイトデーの話 ページ43
「え。冴、ホワイトデーのお返し何もしてないの？」
目の前でもぐもぐとご飯を咀嚼している弟にそう尋ねる。
冴はゴクンとご飯を飲み込んで、コクリと頷いた。
「当たりめぇだろ。なんで俺が返さなきゃならねぇんだ」
「うわぁ…」
若干、引いた目で彼を見つめていると、冴は「なんだよ…」と目を細める。
「だって、お返し目的でチョコあげてた子もいたんじゃない？それに私だったらお返しもらいたいけどな…」
「俺に見返りを求める時点でソイツはナシだ。あと、姉ちゃんの話は聞いてねぇ」
「はいはい……」
相変わらずの弟の態度にため息をこぼす。
少しくらい慈悲をくれたっていいのに……。
こういうところ凛が見たら真似しちゃうでしょーが。
「…じゃあ、今年は私へのお返しナシ？」
バレンタインデーに冴と凛と父にチョコを渡したのを思い出す。私は彼らに感謝を伝えるのとあわよくばお返しもらえないかなー、と思ってチョコを渡したのだが…。
「……姉ちゃんへは、ある」
「あぁ、そう…」
毎年、冴は律儀に私へのお返しをくれる。
まあ、それは凛もだけど。凛は毎年、私の好きなお菓子をくれたりする。だけど、冴がくれるのは形に残るもの。
「…私へのお返しくれるくらいなら、他の子にあげたほうがいいのにね」
ポツリと小言をこぼすと、冴は箸を止めた。
「…？冴？ご飯終わり？」
「……」
冴は無言で私の方へと近寄ってくる。
やがて、鼻と鼻がくっつくのではと思うほどに近づく。
さすがの私でもこれには照れてしまって、顔を背けた。
「むぐっ」
冴が顔を正面から見える位置へと強引に戻す。
い、痛い……。
「……に……ねぇ」
「…？冴？」
私の顔を両手で挟んだまま、冴は何かをブツブツと呟いていく。
やがて私の方へと視線を移して、ハッキリと告げた。
「――姉ちゃんにしかあげたくねぇ」
彼の翡翠の瞳に驚いた顔をしている私が映る。
冴は私の顔から手を離してまたご飯を食べ始めた。
「……変な冴」
ぽそりと呟いて私もご飯を食べ始めた。
❁︎
冴side
《ブレスレット、ありがとう。大切にする》
Aからのメッセージを見て口元が緩む。
今年のバレンタインデーはAからは手紙しかもらわなかったが、Aの直筆の字は俺を安心させた。
来年は何をあげようか。
Aからのバレンタインデー、何ももらえなくても俺からは必ずホワイトデーのお返しをしたい。
それくらい、俺にとって姉へのホワイトデーには意味があるのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 272人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
湊(プロフ) - もちうささん» もちうささん、コメントありがとうございます！これからもふたつのルートにご注目ください！ (6月8日 19時) (
レス) id: 8e39c25e39 (このIDを非表示/違反報告)
もちうさ - 凛ルートと凪ルートがありますね！凛君推しなので結婚とか出来なくても事実婚なら出来ますね！ (6月8日 13時) (レス) @page34 id: c2ca67a91e (このIDを非表示/違反報告)
湊(プロフ) - アルです！\(●°ω°●)/さん» アルです！\(●°ω°●)/さん、コメントありがとうございます！凪は私的にも好きなキャラクターなのでどんどん活躍させていきたいと思っています！ (5月28日 1時) (レス) id: 8e39c25e39 (このIDを非表示/違反報告)
アルです！\(●°ω°●)/(プロフ) - そういえば糸師兄弟と凪は神奈川県出身だったなぁ…凪登場ありがとうございます！ (5月28日 0時) (レス) @page17 id: f6a6e363df (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：湊 | 作成日時：2023年5月19日 12時
