19.手作り料理を食べさせる話 ページ21
「あの…」
ゆらゆらと動いている白髪に話しかける。
彼は私の呼び掛けに反応せずに寝息を立てていく。
「…もうお店閉めるんですけど…」
彼は1時間ほど前に入店してから、ずっと机で寝ている。
店長に聞いてみれば、白髪の彼――誠士郎くんが閉店の時まで入り浸っているのは今日だけじゃないらしい。
ペシペシと彼の頭を軽く叩く。さすがに起きてもらわないと困る。店長は今、最後の皿洗いでキッチンにいるし彼を起こせるのは私しかいないのだ。
「…んあ…」
「誠士郎くーん」
彼の声が小さく聞こえたので、彼の耳元で名前を呼んでみる。すると、彼は大きな瞳をひらいて私を見つめた。
「…誰」
「糸師Aです。新人です。そろそろお店閉めるので…」
「ぐぅ…」
私が話している最中に彼はまた机へと突っ伏する。
数秒後、彼からまた寝息が聞こえてきた。
「えぇ…」
いつまで寝たら気が済むのか…。彼の姿に「はぁ」とため息をつく。
すると、静かなお店の中にグゥーと何かの音が鳴り響いた。
「…誠士郎くん?」
音の発生源は私では無い。だとしたら、誠士郎くんか店長、幽霊くらいしかいないわけで。
「………った」
誠士郎くんが何か言った。
私は耳をすませてもう一度、彼の声を聞く。
「……お腹減った」
❁︎
「…いただきまーす」
「どうぞ、召し上がれ…」
なんなのだこの状況は。
ため息をつきたくなるのを我慢して誠士郎くんの方を見る。誠士郎くんは私が作ったオムライスをボーッと見つめてから、私へと視線を移した。
「…食べるのめんどくさーい」
…食べさせろってこと?
彼の行動がイマイチ理解できない。初対面の人に食べさせろって言う人初めて見た。
私は彼からスプーンを受け取ってオムライスをすくう。
彼は雛鳥のようにあーんと口をひらいていた。
「…どーぞ」
彼の口元にスプーンを運ぶ。誠士郎くんはパクッとオムライスを食べるともぐもぐと咀嚼してから飲み込む。
「…美味しい?」
「フツー…」
普通…。凛やお母さんには大好評なんだけど…まだまだ改善の余地ありということかな。
私はもう一度、スプーンでオムライスをすくって誠士郎くんに食べさせる。
「…誠士郎くんって変な人だね」
彼が咀嚼しているのを横目にそう呟く。すると、誠士郎くんもボソッと呟いた。
「俺に構ってるアンタも変な人だね」
誠士郎くんの考えていることがやっぱりわかんない。
だけど、まぁ変な人同士仲良くなれならいいなって思います。
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湊(プロフ) - もちうささん» もちうささん、コメントありがとうございます!これからもふたつのルートにご注目ください! (6月8日 19時) (レス) id: 8e39c25e39 (このIDを非表示/違反報告)
もちうさ - 凛ルートと凪ルートがありますね!凛君推しなので結婚とか出来なくても事実婚なら出来ますね! (6月8日 13時) (レス) @page34 id: c2ca67a91e (このIDを非表示/違反報告)
湊(プロフ) - アルです!\(●°ω°●)/さん» アルです!\(●°ω°●)/さん、コメントありがとうございます!凪は私的にも好きなキャラクターなのでどんどん活躍させていきたいと思っています! (5月28日 1時) (レス) id: 8e39c25e39 (このIDを非表示/違反報告)
アルです!\(●°ω°●)/(プロフ) - そういえば糸師兄弟と凪は神奈川県出身だったなぁ…凪登場ありがとうございます! (5月28日 0時) (レス) @page17 id: f6a6e363df (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:湊 | 作成日時:2023年5月19日 12時