第7話 ページ7
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「あ、やば」
ごめん、とAは友人に告げ忘れ物を取りに教室へ向かった。実験室があるのは1年生の教室のフロア。ここを通り抜ける方が教室が近いため、Aは1年生のフロアを歩き出した。初々しい制服姿が眩しかった。
マイノリティな上履きの色が恥ずかしかった。
無事に6組に到着し、忘れていた教科書を持ち踵を返した。
もう一度、あの道を通るのか。Aは居心地の悪さを思い出して苦笑いを浮かべた。授業に遅れるのは避けたいところだった。
背に腹は変えられない、そう決めたAはもう一度マイノリティになる事にきめた。
別に自分のことが言われている訳では無いのが、ザワザワする廊下の居心地の悪さを感じAはこの道を選んだことを少しだけ後悔した。
先輩じゃない?と言う1年生の声が聞こえた。そうですよ、3年生ですよ。
「あれ、先輩?」
聞き慣れた声に振り向けば、前方の教室の扉から出てきた越前であった。Aは知り合いの登場に思わず安堵の息を漏らした。
ここの学生たちよりも歳上なはずなのに、どこか緊張していたのだ。
「あ、越前くん」
「何してるの」
「忘れ物しちゃって」
ほら、と右手にある化学の教科書を掲げた。
越前は興味あるのかないのか、ふうんと短く口にした。
会話も広がりそうにないな。特にここに居座る理由もないAは越前に軽く会釈してその場を去ろうとする。
「まって、先輩」
空いた右腕を越前に掴まれる。重力に逆らわずに振り返れば、越前はバツの悪そうな表情を浮かべた。
あれ、もしかして
「ん?どうしたの?」
「また声かけてもいいですか」
周りに同級生がわんさか居るだろうに、この少年は何を言い出すのだろうか。
その証拠に、陽気そうな男の子が1人こちらを興味深々といった様子で眺めているではないか。Aは大きな瞳で瞬きをした。
教室から吹き込む風で越前の前髪が揺れる。Aの顔に影を作った。あれ、越前くんってこんなに大きかった?
「今もかけてるけどね、…授業遅れちゃうから」
Aは優しく越前の腕を離す。じゃあね、と越前に告げてついでに後ろの彼にも軽く微笑みを残した。
触れられた右手をもう一度触る。
夏が来たなぁ、とAは呟いた。
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「おい越前、今のすっげえ綺麗な人誰だよ!」
「別に、堀尾には関係ないけど」
「ンだよ釣れないなぁ〜いいだろ教えてくれよォ」
「絶対教えない」
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福原(プロフ) - ぱーぷる姫さん» ありがとうございます❤︎ぱーぷる姫さんにそう言っていただけて光栄です( X_X ) (2月24日 1時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぱーぷる姫(プロフ) - 涙が溢れ出ました!あまりに綺麗で切ない表現に何度も読み返しました。ありがとうございました! (2月18日 15時) (レス) id: 4d7ac923b9 (このIDを非表示/違反報告)
福原(プロフ) - 幸絵さん» ご感想ありがとうございます(;_;)またどこかで2人が会える日がくることを願っています、、リョーマ!失恋組!初遭遇です!やはり初恋は実らないものですね、、 (2021年11月10日 9時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
幸絵(プロフ) - 完結おめでとうございます!ついついヒロインの先輩と結ばれて欲しい〜って思ってしまいました。話は変わりますが、『劇場版リョーマ!』私も失恋した気分になりました! (2021年11月10日 6時) (レス) id: 4696a5fece (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:福原 | 作成日時:2021年9月17日 0時