第41話 ページ41
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照れ隠しするように赤く染った鼻先に触れた越前を見て、Aは微笑んだ。クリスマスイヴに、初雪が降る夜に、あなたに会えてよかった。そう口にしてしまえば消えてしまいそうで怖かった。まるで、初雪みたいな、そんな私たち。
「越前、くん」
肩で息をするAに越前は駆け寄った。どうしてここに?なんて野暮だった。
「先輩、イルミネーション見ない?」
寒いね、とAの震える手に触れた越前にAはハッとした。小刻みに震える指先を見て気が付いてしまった。
見上げた銀色の世界があまりにも綺麗で、泣きそうになった。
大人びたキャラメル色のコートと彼の赤く染った鼻先がミスマッチだった。それでも、Aには越前がこの街の誰よりも輝いて見えた。きっと、世界中の誰よりも。
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イルミネーションの終わり、人々は背を向けて歩き始めていた。
雪はしんしんと振り続けていた。Aの肩に触れたそれは体温でコートに染み渡るように溶けた。
「俺、今日誕生日なんだ」
先輩は知らないと思うけど、と白い息を吐きながら越前は告げた。
真っ直ぐに見つめられた瞳が痛かった。静寂が苦しかった。
越前は薄く微笑みAに背を向けて歩き出した。デジャブだった。数え切れないくらいの喝采と抱えきれないくらいの重荷を背負った、彼の背中が遠ざかっていく。
君という季節を、悠々と流れてしまった。
刹那の快楽に溺れていたのはどっちだったか。懸想の痛みを甘んじて受け入れたのは誰だったか。
君は、ヒーローなんだよ。今までも、これからも。
Aは足を止めた。越前の遠くなっていく背中が、もう手の届かない背中がどうしようもなく愛しかった。越前くん。あのね、私は。
彼の大きな背中に手を伸ばしてしまったのは、私の最後の我儘だった。
彼の心音が聞こえた。この音色を聞いてるのは、世界で私だけだ。ごめんね。ごめんね、越前くん。血が全身に巡っているが分かった。お願いだからこのままでいさせて。
Aの握りしめた右手を越前が優しく解いた。彼が振り返ったのが分かった。イルミネーションを背にした彼の顔は逆光でよく見えなかった。
越前の乾燥した指先がAの頬に触れた。泣かないで。越前の酷く優しい声が鼓膜を擽った。
泣いてなんかない、泣いてなんか。越前の瞳が伏せられた。優しく酷く穏やかに近付いた彼にAは瞳を閉じた。
Aの頬に伝った涙は、少しだけ甘かった。
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福原(プロフ) - ぱーぷる姫さん» ありがとうございます❤︎ぱーぷる姫さんにそう言っていただけて光栄です( X_X ) (2月24日 1時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぱーぷる姫(プロフ) - 涙が溢れ出ました!あまりに綺麗で切ない表現に何度も読み返しました。ありがとうございました! (2月18日 15時) (レス) id: 4d7ac923b9 (このIDを非表示/違反報告)
福原(プロフ) - 幸絵さん» ご感想ありがとうございます(;_;)またどこかで2人が会える日がくることを願っています、、リョーマ!失恋組!初遭遇です!やはり初恋は実らないものですね、、 (2021年11月10日 9時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
幸絵(プロフ) - 完結おめでとうございます!ついついヒロインの先輩と結ばれて欲しい〜って思ってしまいました。話は変わりますが、『劇場版リョーマ!』私も失恋した気分になりました! (2021年11月10日 6時) (レス) id: 4696a5fece (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:福原 | 作成日時:2021年9月17日 0時