第37話 ページ37
.
.
動いた越前に対して座って見ていたAは冬の刺すような寒さにだいぶ堪えていた。
我らのヒーローに御足労をかけてしまった、と半分笑いながらAは越前を連れてコンビニへ向かった。
肉まんを1つ、と頼むAに越前は首を振っていたが、先輩面くらいさせて欲しかった。
「半分こしよっか」
コンビニの外に出たAは、右手に持つ白い湯気がたつ肉まんを越前に差し出した。越前は肉まんを凝視して固まった。
固まる越前にAは我に返った。
そうだ一応彼も高校生だし、食べ物を共有するのはちょっとやりすぎた。間接的な接触には敏感な年頃だったか。
「いや、」
越前は大きな体躯を屈めてAの右手首を優しく掴み、肉まんを頬張った。
数回咀嚼した後「美味い」と満足気に微笑み、赤くなった鼻に触れた。少しだけ濡れている越前の前髪が揺れた。
冬になり、日が落ちるのが早くなった。
薄暗い景色の中、コンビニの蛍光灯の光に照らされた越前の瞳にAが映った。その瞳に、影は見えなかった。
ねぇ、私は今どんな顔をしてる？
「越前くん」
越前くん、Aは咀嚼するように越前の名前を呼んだ。確認するように、静謐に。
「ん？」と歯痒そうに微笑む越前にAは何故か泣きたくなった。
いつからか、彼といる時間が楽しくて、彼といることが当たり前で、彼と一緒にいたいと思うようになっていた。
彼の瞳に私が映る度、胸が高鳴るのを感じていた。彼が私を呼ぶ時、彼が私を見つめる時、彼が私に触れる時。私の胸は高鳴っていた。それと同じくらい、苦しかった。彼と出逢って時が流れすぎた。
この季節を、いつまで私は生き続けることができたのだろうか。
いつかはこの情熱も冷えきってしまうことも、新しい季節を過ごさなければいけないことも分かっていた。神様がいるのであれば、叶えてほしかった。この季節の中でずっと流れていたかった、と。
季節は巡って冬が訪れた。吐く息が白い。
私は生きている。そっか、私は生きてるんだ。
「越前くん」
越前の肩越しに月と目が合った。今日は満月だった。
.
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 89人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「テニスの王子様」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
福原(プロフ) - ぱーぷる姫さん» ありがとうございます❤︎ぱーぷる姫さんにそう言っていただけて光栄です( X_X ) (2月24日 1時) (
レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぱーぷる姫(プロフ) - 涙が溢れ出ました！あまりに綺麗で切ない表現に何度も読み返しました。ありがとうございました！ (2月18日 15時) (レス) id: 4d7ac923b9 (このIDを非表示/違反報告)
福原(プロフ) - 幸絵さん» ご感想ありがとうございます(;_;)またどこかで2人が会える日がくることを願っています、、リョーマ！失恋組！初遭遇です！やはり初恋は実らないものですね、、 (2021年11月10日 9時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
幸絵(プロフ) - 完結おめでとうございます！ついついヒロインの先輩と結ばれて欲しい〜って思ってしまいました。話は変わりますが、『劇場版リョーマ！』私も失恋した気分になりました！ (2021年11月10日 6時) (レス) id: 4696a5fece (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：福原 | 作成日時：2021年9月17日 0時
