無一郎くん夢小説あるある【短編集】 (ページ4)

今日:15 hit、昨日:73 hit、合計:16,223 hit

夢主のことだけは忘れないページ4

ー

里へ刀をお持ちになったときはいつも、時透様はこの丘へきて、紙ひこうきを飛ばしている。

刀鍛冶である私は、密かに見つめては恋焦がれていた。

今日は見つめすぎて、こちらに気づいた時透様が最後のひとつを飛ばしたあとに声をかけてくれた。

「A、来てたんだ。あれ、なんでだろう…僕、Aのことは覚えてられるんだよね。」

時透様がくしゃりと笑んで手招きしてくださるので、隠れていた藪を抜けて、慌てて近寄る。

『…嬉しいです。時透様。不思議なこともあるのですね。』

「そうだね。不思議。いつも見つめられてるからかな。」

からかうようにくすっと笑って、見おろしてくる。

年齢は私よりもいくつも下だと言うのに、なんとも色気のある男の子で、この蠱惑的な瞳と視線がぶつかったとき、どきどきしない女の子はいるのだろうか。

〝いつも見つめられてる〟とわざわざ言われたということは…今日だけでなく毎回気付かれていたのだろう。

すごく恥ずかしい。

「ねぇA、僕のこと名前で呼んでよ。」

『いえ、そんな恐れ多い……！』

「なんで。せっかくこうして話す仲なのに。」

『私なんかが時透様を名前で呼ぶなんて烏滸がましいです。貴方は柱、私は刀鍛冶です。』

そう言うと時透様は少し困った顔をしたかと思うと、すっと私の耳元に唇を寄せてきた。

突然のことに驚いて固まる私に、時透様は囁いた。
この距離じゃないと聞こえないような、低い声で。

「僕は、Aって呼んでる。一度も忘れたことない。」

『え、あ……』

「Aは呼んでくれないの？」

『そ、それは……』

「呼んでみてごらん。無一郎って。」

『……無一郎…くん。』

よくできました。と満足そうに目を細めて、犬や猫を愛でるように、くしゃくしゃと私の髪を撫でた。

私には分かる。

時透様は私の頰がこうして紅く染まるのが面白いのだ。

こんな意地悪をされても、やぶさかではない私は、次はいつ時透様が刀鍛冶の里に来るのだろう、と待ち遠しくなった。

────────────────────────

絶対に夢主さんのことだけは忘れない。

そんな夢仕様の霞柱。