モブはとことん当て馬にされる ページ29
@A
窓の傍にある無一郎のベッドから身を乗り出して外を眺めていると、背後でことりと湯呑みを置く音がした。
「A、風邪ひくよ。」
『…うん。ねぇ、ここからは陽が沈んでくのもよく見えるね。』
無一郎もベッドに腰掛けて、私の傍がぎしりと沈む。
「そんな顔して言うと意味持っちゃうなぁ。」
黄昏色に照らされた無一郎に見つめられれば、初めてキスした日の私たちに戻ったような夢見心地で。
瞳の奥の奥まで、大好きだったあの頃のまま、ちっとも変わらない。
今、傍に居て私に注いでくれるこの眼差しを信じて、傷付くことから逃げて捨て置いたこととも向き合いたい。
今日の無一郎の荷物が、女性が詰めてくれたように綺麗だったことも、自分のことも、全部。
『…ごめんね、真剣に話したいのにな。やっぱり無一郎と居るとあの頃みたいにドキドキしちゃって…頭が回らなくて。』
「……その言い方は、すごく僕を期待させるけど。」
無一郎の手が、ベッドについた私の右手を包んだ時、すりすりと薬指に触れた。
「え…これ、僕が昔Aにあげた…ずっとつけてたの?」
『うん…指輪はこれしかつけたことないよ。』
ぽすんっ、と私の首元に顔を埋めてきて、無一郎の熱っぽい息づかいを感じる。
こういう時の体感的な物差しは割と当たるもので。
話す余裕が無くなる前に、と頭では解るのに、すっぽりと無一郎の腕の中におさまってしまった。
「…嬉しい。Aを繋ぎ止めるものがもう一つも無かったら諦めようと思ってたから。」
回された無一郎の腕に力がこもって、簡単に腰を掬われてあっという間に背中がベッドに沈んだし、両手の指は絡め取られた。
無一郎の唇が耳に押し当てられて、ドキドキなんて通り越して、身体が強張る。
「…僕、本気出していい?」
とその時、ガチャ!バン!と玄関から物音が。
「ただいまー…わ!Aの靴があるじゃねえか!来てるのか!俺だぞー!」
『……ねぇ、有一郎が帰ってきたよ…っ』
「…………」
(※兄さん帰省してなかった場合、大人展開でした♡)
「…A、向こうでちゃんと話そっか。今のAのことも、聞かなきゃ。」
『……うん、無一郎のことも。』
ちょっと残念だった?と目を細めてくるので、思わず頷きそうになったのを抑えて無一郎のおでこをこつんと突けば、イテ!と笑う。
離れていた時間なんかなかったみたいに感じるこの温度が嬉しくて仕方なかった。
→つづく
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作者名:まちゃむん | 作成日時:2023年11月21日 19時