モブはとことん当て馬にされる ページ25
@無一郎
「兄さん、迎え来てくれてありがとう。」
「久しぶりだな無一郎。…ん?何見てたんだ。」
バイクから片足をついて、兄さんが僕のスマホの写真をのぞきこんで顔を顰める。
高校生の頃のAと僕が、「どっちのほっぺが伸びるか対決!」と言って、お互いの頰を摘みあって仲睦まじくカメラに笑顔を向けているこの写真は、何度見ても微笑ましくて顔が緩む。
「……なあ、もう四年近く会ってないんだろ?」
「ね。時間経つの早過ぎ。地元の駅見てると思い出しちゃって。」
「俺も今日久々こっち帰ってきたから、懐かしいよ。ん、お前のメット。ウチ帰ろう。」
「…このメットもAがくれたやつだよね。」
「…ふ。いくらでも思い出でてくるぞー。実家帰ったらAのマグカップもまだあるし。お前の部屋から靴下とか出てくるんじゃねえの。」
「僕…耐えられるかな。」
くすくすと笑う兄さんのバイクの後ろに跨がって、Aが何年も前の僕たちの誕生日に贈ってくれたお揃いのメットを被る。
懐かしい。会いたい。
こうして少し思い出に触れただけで身体の奥からAを求めてしまう自分の愚かしさに小さく自嘲する。
僕とAは、生半可な絆じゃない。少なくとも僕はそう思ってた。
前世で僕たちが師弟関係の間柄として同じ屋根の下、長い時間を過ごすうちにお互いに特別な感情を抱いたのは自然なことだった。
鬼の始祖を滅したのち、僕がAに男として気持ちを伝えた日。
あの告白の日までの記憶を思い出してくれたAは、またこの時代でも僕に恋をして。何度だって抱きしめて、僕はいつだってAを全身で感じて、いつだって満たされて。
遠距離恋愛だって僕たちなら乗り越えられると思ったし、一旦連絡をとるのをやめようと言ったのも、会えないもどかしさから喧嘩になるほどピリピリしていた僕たちがお互いに新生活や勉強に集中できるならと思ってのことだった。
月並みな表現だけど、僕とAは前世からの運命の赤い糸で結ばれているんだから、二人の未来のために我慢する期間なんだって信じてた。
Aに新しい彼氏が出来たことを知るまでは。
「兄さん。Aが悪そうな男に引っかかってたらどうしよう。タバコ吸っててギャンブルしてて店員に強気なやつとか。心配だな。」
「お前からの振り幅でかいなーそれ。」
→つづく
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作者名:まちゃむん | 作成日時:2023年11月21日 19時