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退官の日、既にまとめた荷物を抱えて城を出る。
見送りに来た部下達は最後まで渋っていたが、Aは困ったら相談くらいは乗るからと何とか宥めて彼らの元を去った。
その足で向かうのは霊園。
途中花屋に寄って向かうのは、言わずもがな大恩のある上司が眠る場所。
暮石の前に花を供え、その場に荷物を置いてしゃがみこむ。

『大佐、本日付けで退官したのでご挨拶に参りました。今まで本当にありがとうございました。残りは全て部下に託してきたので心配いりませんよ。多分』

静かな霊園では相変わらず風の音しかしない。
誰もいないこの場所は寂しくもあるが、おかげで他の人間には言えない言葉が素直に出てくる場所でもあった。

『…何とか一人でやろうと思いました。でも、駄目でした。私は大佐がいないと何も出来ませんでした。…あんなにお世話になったのに、役に立てない部下ですみません』


風が頭の上を一層強く吹き抜ける。
それは偶然の出来事だったが、Aにはエーデルが応えてくれたように感じた。
まるで、そんなことはないと、子供のように頭を撫でられているような。
錯覚と妄想だとわかってはいてもどうしようもなくこみ上げてくる感情に、Aは堪えきれずに膝に顔を埋めて視界を腕で遮る。

この人は死して尚も見守ってくれるのか。
怒ったり悲しんだりせず、いつものように自分の話を聞いてくれるのか。
何も返せなかった生意気なこの元部下を、責めないでいてくれるのか。


『…っ、ごめんなさい、ごめんな、さい…!…大佐がいなくなったのは、私の、せいなのに…っ、私が一番、どうしていいかわからない…!』

部下の前では強がって保ってきた元第一外交官としてのプライドなど今はカケラも無い。
あの日から壊れてしまった涙腺は自分ではどうしようも出来ずに、ただ声を押し殺して肩を震わせる。
まだ外交官としてやるべきことがあった。
やりたいこともあった。
部下だってもっと一人一人目をかけてやりたかった。

でも、それも今日で終わった。
エーデル亡き後はこうなるとわかっていたのに、それでも気持ちは理屈で整理がつけられなかった。
あの時自分が刺されていれば、こんなことにはならなかったのに。
彼の死を一番引きずっているのは間違いなくAだった。
そしてそれは一月程度で到底治まるものではなかった。

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はろ - 初コメ失礼します。今日初めてこの小説を見つけ一気に読んでしまいました。素敵な作品をありがとうございます! (2019年5月10日 23時) (レス) id: 04eaede967 (このIDを非表示/違反報告)
すみれいん(プロフ) - あ、あの、エーデルが死ぬと思ってなくて思わず涙が……(T ^ T)作品好きです!ま、まさかのおおおおってなっておりますっっ! (2019年4月26日 17時) (レス) id: 0dc2b364d7 (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - フーさんさん» コメントありがとうございます。ボキャブラリー広いですか…!?まだまだ勉強不足な面もありますが、そう言っていただけて嬉しいです!ありがとうございます。続編もあるのでよかったらご覧になってみてください。 (2018年3月14日 21時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)
フーさん - 主様のボキャブラリー広すぎるぅううう… (2018年3月14日 13時) (レス) id: c25a3a0724 (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - 遊馬さん» コメントありがとうございます。まだまだ拙いですが、お褒めのお言葉とても嬉しいです…!お気遣いありがとうございます。次作もどうぞよろしくお願いします。 (2017年7月7日 14時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:璃亜 | 作成日時:2017年5月24日 22時

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