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昼食も食べ終わり、食後のお茶もいただいた。
さすがにそろそろ帰らなければまずい。
グルッペンやオスマン、鬱あたりはもう少しゆっくりしていくよう勧めたが、Aの決意は変わらなかった。
仕事が立て込んでいる旨を伝え、幹部達に本日のお礼を述べて頭を下げる。
帰った時に果たしてどれだけ書類が増えているのか、考えるのも嫌だった。
立ち上がったAをまた門まで送ろうとオスマンが腰を浮かすが、その行為は意外な人物によって止められた。
日差しが雲に遮られ、周囲の明るさに少しだけ影を落とす。
食堂を出て玄関へ歩く道すがら、先程よりほんの僅かに暗くなった廊下でAは半歩前を歩く男に声をかけた。
『わざわざお見送りありがとうございます、書記長殿』
オスマンを制しAを送っているのはトントンだった。
帰り際にワーワーと騒ぐ幹部達に、お前ら全員食堂でおとなしくしてろ、と言った時の彼は見えない怒りを背負っていた気がする。
「いえ、構いません。お気になさらないで下さい」
こちらへ向ける顔は微笑んではいるがちらほらと疲れが見え隠れしている。
その様子を見てAは静かにその場で足を止めた。
『書記長殿、本日は数々のご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございません。改めてお詫び申し上げます』
最敬礼45度。
前触れもなく綺麗なおじぎで頭を下げたAに思わずトントンも慌て始める。
「A外交官殿!?どうされました!?頭を上げて下さい!」
『書記長殿にはおかれましては本日だけでも多大なるご心労をおかけしてしまいました。私のせいで頭を悩ませることも多々あったことでしょう』
「ええ!?いや、そんなことありませんよ!むしろそれはうちの幹部がご迷惑ばかりおかけしてしまったからであって、A外交官殿のせいでは…!」
『お優しいお言葉、ありがとうございます。ですが、それでもやはり書記長殿への謝罪はさせていただくべきです。私個人としても申し訳ない気持ちでいっぱいですし』
「いやいやいや、それならこちらが謝罪するべきでしょう!A外交官殿のお気持ちも考えずに困らせる奴らばかりで…」
廊下の真ん中でペコペコ頭を下げ合う二人、側から見たら異様な光景だ。
やがてパチリと目が合うと、彼らは同時に苦笑いを浮かべた。
「…お互い、苦労しますね」
『そのようです』
何か通じるものがあったのか、今度は書記長殿とお話ししてみたいですと言うAに、私もです、と彼は素直に同意した。
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ゆう - メンバー同士の掛け合いもリアルでテンポよく、話の構成もしっかりしていてとても読み応えがあり面白いです!言葉の選び方や設定まで凄く丁寧で尊敬します。小説として面白く、それでいて『リアル』を崩す事なく描かれていて凄いと思いました。 (2019年8月4日 23時) (レス) id: 7c238edc15 (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - もちえもんさん» コメントありがとうございます。沢山のお褒めの言葉、嬉しいです!書きやすい方と掴みきれていない方でどうしても差が出てしまうのですが、なるべくいろんな方と絡めるように頑張ります。 (2017年5月18日 2時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)
もちえもん(プロフ) - 恋愛一色ではないのにこんなに好きになった小説は初めてです。メンバーと仲良くなっていく過程が早すぎず、自然で素晴らしいです!キャラが掴めていて、言葉遣いが上手で尊敬します。今後とも楽しみにしておりますm(_ _)m (2017年5月17日 23時) (レス) id: 801b233da8 (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - 那月さん» コメントありがとうございます。読みやすいですか…!ありがとうございます!話の進みは遅いですがよかったら今後とも見ていただけると嬉しいです。更新も頑張ります! (2017年5月16日 13時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)
那月 - 夢主ちゃん苦労人ですね;´`文面もきちんとしていてとても読みやすく、面白いです…!!昔ほど酷くないですが未だにやや男尊女卑の所があるのでそこも共感して読めます。これからどのように夢主ちゃんが戦っていくのかとても気になります。更新頑張ってください(*´-`) (2017年5月16日 3時) (レス) id: 329c4228b4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:璃亜 | 作成日時:2017年4月30日 2時