メコオヤシ ページ10
私達は数日かけて、新問付近にある樺太アイヌの集落にたどり着いた。そこでアシリパとスヴェトラーナさんの行方について尋ねてみたが、皆一様に首を横に振るだけだった。
聞き込みをしていく中で、事情を話すと、快く家に泊めてくれる人がいたので、今日はそこに泊まることになった。
「チカパシ聞いて！こないだこの村メコオヤシ出たって！」
「なにそれ怖いやつ？」
エノノカちゃんが、チカパシくんに嬉々として話している。メコオヤシとは、樺太アイヌの昔話に出てくる、赤と白のぶち模様がある猫の化け物なのだそうだ。
エノノカちゃんの話を聞いた月島軍曹が、その特徴からそれはオオヤマネコだと推測する。
「ふん…尾形百之助じゃないのか？いよいよ奴らに追いついたか」
「なんで尾形なんだよ」
鯉登少尉の言葉に杉元さんが突っ込む。杉元さんは、第七師団にいなかったから、知らないのも無理はないかもしれない。
何も知らない杉元さんに、鯉登少尉は教えるように「“山猫の子は山猫”…」とつぶやいた。
「どういう意味だ？」
「山猫は"芸者"を指す隠語だ。師団の一部の連中が言っていたくだらない軽口だ」
「本当にくだらねぇな…」
杉元さんは嫌悪感を露わにする。私だって同じ気持ちだ。聞いていて、気分の良いものではない。
「あの性格だ。嫌ってる人間も少なくもない。私も大嫌いだ」
それに、と鯉登少尉は続ける。
「それに“山猫”にはいんちきとか、人を化かす意味の隠語もあるのだろう？山猫会社とか……。くだらん悪口だが、しかし、案の定ではないか」
違うか、杉元。
忌々しいというように吐き捨てたあと、鯉登少尉は杉元さんを見つめた。
杉元さんはその言葉に、肯定も否定もせず、ただ黙って聞いている。重苦しい空気の私達とは正反対に、子供たちは子供たちでメコオヤシの話で盛り上がっている。
きっと鯉登少尉殿は、悪気があってこの話をしているわけではない。本人ではどうしようもないことで、蔑まれたり、嫌われたりしてしまうことは、本人の性格に難があるから、仕方がないと思っているのだろう。
鯉登少尉は、真っ直ぐな方だから。
だからこそ、尾形上等兵のような人間は許せないのかもしれない。
「その変な話に教訓があるとすれば……“泥棒猫は撃ち殺せ”だ」
シン…とした空気の中、鯉登少尉の言葉だけが響いたのだった。
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塩わさび(プロフ) - くろわっさんさん» コメントありがとうございます。毎日だなんてとても嬉しいです☺これからも宜しくお願いいたします！ (6月18日 21時) (
レス) id: bea5a70fe9 (このIDを非表示/違反報告)
塩わさび(プロフ) - あもさん» 何を企んでいるんでしょう…😏😏 (6月18日 21時) (レス) id: bea5a70fe9 (このIDを非表示/違反報告)
くろわっさん - 最高です😭😭😭💖毎日のように読ませていただいております！！これからも楽しみにしています🙇🏻♀️💖💖 (6月7日 0時) (レス) @page43 id: 046a741a21 (このIDを非表示/違反報告)
あも(プロフ) - 尾形さん一体何を・・・。てかいつの間にか尾形さんと鯉登さんとの三角関係に！！？？ (6月6日 22時) (レス) @page43 id: 656bb5ebbb (このIDを非表示/違反報告)
塩わさび(プロフ) - あもさん» ですね☺共感していただけて嬉しいです💕 (6月6日 12時) (レス) id: bea5a70fe9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：塩わさび | 作成日時：2023年5月14日 23時
