焦燥 ページ44
結果的に言うと、尾形上等兵には逃げられてしまった。鯉登少尉は怪我を負ってしまったものの、大したものではなく大事には至らなかった。
その後、お世話になった病院やニヴフの村の人々にお礼を言い、無事国境を超えて再び樺太へ戻ってくることができた。
そして現在、私たちは樺太アイヌの集落にお世話になっていた。白石さんや杉元さんはお酒を飲んでいたため、もうすでに出来上がった状態で、わいわい騒いでいる。
私はというと、なんだか食欲がわかず、少し離れた場所でぼんやりとその様子を見ながら、尾形上等兵の言葉を思い出していた。
────“俺がお前を愛しているからだ”
あの時、尾形上等兵は私のことを愛していると確かに言った。
でもそれはあり得ないことだ。だって、昔から私達の間には何も無かった。
そもそも、本当に私を愛しているのだとしたら、あの時髪を掴んだり、突き飛ばしたりするのだろうか。
そして…赤沢銅山という言葉。この銅山は、あの足尾銅山と並ぶほどの銅を産出している、私の地元にある銅山だ。
同郷である尾形さんがあの山のことを知っていてもおかしくはないが、何故あの時、わざわざ口に出したのだろう。
考えれば考えるほど、疑問ばかりが浮かんでくる。
尾形さんが何を考えているのかわからないが、一つだけ確かに言えることは、私達を引っかきまわして楽しむためにあんなことを言ったにちがいないということだ。
「………」
そっと唇に指先で触れる。まだ、僅かに尾形さんの体温が残っている気がして、胸がざわついた。
「どうした、A。何かあったか？」
隣りに居た谷垣さんが心配そうに声をかけてきた。
「……いえ、別に大したことはありません。ただ先程、唇を強く噛んでしまったみたいで……血がでて痛くて」
咄嵯についた嘘だったが、我ながら良い言い訳ができたと思う。実際に唇を強く噛んでしまったのは事実だ。
谷垣さんはそれを聞くと、「大丈夫か」と私の顔を覗き込んだ。
「え〜？なになに？Aちゃん、唇切っちゃったの？俺にも見せてぇ？？」
酔っぱらいの白石さんが近づいてきて、私の顎へと手を伸ばそうとする。その瞬間、尾形上等兵に接吻されたことを思い出してしまい、「だ、めですッ！！」と思わず叫んでいた。
私の反応を見た二人は驚いたように目を見開くと、一瞬沈黙が流れる。他の人たちもこちらに注目しているようで、視線が一気に私に集まった。
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塩わさび(プロフ) - くろわっさんさん» コメントありがとうございます。毎日だなんてとても嬉しいです☺これからも宜しくお願いいたします！ (6月18日 21時) (
レス) id: bea5a70fe9 (このIDを非表示/違反報告)
塩わさび(プロフ) - あもさん» 何を企んでいるんでしょう…😏😏 (6月18日 21時) (レス) id: bea5a70fe9 (このIDを非表示/違反報告)
くろわっさん - 最高です😭😭😭💖毎日のように読ませていただいております！！これからも楽しみにしています🙇🏻♀️💖💖 (6月7日 0時) (レス) @page43 id: 046a741a21 (このIDを非表示/違反報告)
あも(プロフ) - 尾形さん一体何を・・・。てかいつの間にか尾形さんと鯉登さんとの三角関係に！！？？ (6月6日 22時) (レス) @page43 id: 656bb5ebbb (このIDを非表示/違反報告)
塩わさび(プロフ) - あもさん» ですね☺共感していただけて嬉しいです💕 (6月6日 12時) (レス) id: bea5a70fe9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：塩わさび | 作成日時：2023年5月14日 23時
