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崩れた街と復讐の炎 ページ2

軽く地面を蹴り、唯一残されていたショッピングモールの屋上に飛んだ。かつて車だった鉄クズに足を取られながら、少女は屋上の一番高い場所の近くまで歩き、今度は車の天井を蹴ってそこまで到達した。

 屋上の、さらに高い所に上った少女、筑波(つくば)かすみ――今は魔法少女「エデン・インフェルノ」の姿だ―――は、誰もいなくなった屋上から、町を眺めた。

 横に倒れた鉄柱。焼け落ちた首都高速。瓦礫でいっぱいになった港。ドミノ倒しになった団地やビル群。団地には、中学に入ってから疎遠になった友人が住んでいた。彼女は元気にしていただろうか。

 黒雲が街を覆い、空には青も白も見つからない。今が昼か夜かさえ、わからなくなってしまった。

 突如現れた怪物に逃げ惑う人々の悲鳴も、パトカーや救急車、消防車のサイレンも、もう聞こえない。

 何もかもが、消えてしまったのだ。かすみを残して、全て。

「…インフェルノ」

 甲高い音が聞こえた。インフェルノは薙刀にも似た武器を実体化させ、声の先に刃を向ける。刃の先には、体長20センチ程度の、背中に羽を生やした人間のようなもの―――妖精がいた。

「あんたは…あんたは何がしたかったのさ。怪物を目の前にして逃げ惑っていたあたしを全てが終わる直前にこんな姿にして。楽しかったと思う?何もできずに、ただただ崩壊していく街を眺めるのは」

 武器の先に力を込める。刃先の温度が上昇し、妖精の顔が揺れたが、妖精はお構いなしにこちらをみて笑っている。

「あなたを生かしたかったの。今も悪い奴らが、どこかで街を滅ぼそうとしているわ。この町のように、ね。私は一つでも多くの町を救いたいの。だから」
「一つでも多くの町を救うには、タイミングが遅すぎたんじゃないの?」

 妖精の声に被せてインフェルノは放った。感情に任せて妖精を切らない辺り、妙に頭だけは冷静に動いていた。そんな自分に怒りを感じる。

 妖精が刃の上を飛び、インフェルノに近づいた。もう一度妖精に刃を向けるには3歩程下がる必要があったが、生憎、インフェルノの後ろは鉄柵だ。深いため息をつきながら、インフェルノは刃をおろし、武器の実体を解除した。

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作者名:日向蜜柑 | 作成日時:2019年12月2日 17時

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