死神さんの気まぐれ短編集【２】 (ページ29)

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【歌えない天使】《死神視点》３ページ29

暇だからアリーナに行こうと部屋から出る

この施設はとんでもなく広い

しかもどんどん改造されてる気がする

どこに繋がってるのかわからない道なんかも存在する

俺はそんな冒険しないタイプだから最初に教えられた道しか通らない

が、気まぐれが発動して他の道に足を進めていた

この道がアリーナに繋がっているのかすらわからねーが、まぁいい

迷ったら引き返す

先を進んでいくと声が聞こえた

この道通るヤツ居んのか

さらに足を進めるとどうやら誰かが歌を歌っているようだ

しかもしばらく聴いてない懐かしい賛美歌だ

この歌を歌えるのは･･･Aか

『A』

実際に本人から聞いた名前ではないが、皆そう呼んでるからきっとそれがアイツの名前だろう

歌声に導かれて足を進めると湖が現れた

眺めていると水辺にAが居ることに気付いた

こんなとこで１人で歌ってるなんてな

Aの歌声は決して上手いとは言えないが、俺の胸にスーッと入ってくるような

温かい何かを感じる

それが心地良くてついつい聴き入ってしまっていた

｢〜〜〜♪｣

邪魔するのは申し訳ねぇが、ずっと探していたヤツが見つかったんだ

声をかけないわけにもいかねぇ

13｢まだ居たのか｣

この世界に残っている事を知らなかったフリをして敢えてそう言う

声をかけるとAはブリキのおもちゃの様にぎこちなくこちらを振り向いた

やっぱり怖がっているみたいだ

｢あ･･･っ｣

13｢もしかして帰れなかったとかか？可哀想にな｣

帰れなかったのか自分で選択したのか聞き出すために少しかまをかけてみるが、怖くて喋れないみたいだ

無理に聞き出すことでもない、ゆっくりでいい

カタカタと震えているAに気は止めず近くまで行き、Aの隣にあぐらをかいて頬杖をつく

んなの気にしてたら一生話せねぇしな

｢･･･え｣

横から聞こえた間抜けな声を出した本人に顔を向ける

さっきまで歌っていた賛美歌の続きを歌う気はないらしい

やっぱり邪魔しちまったか

13｢どうした？歌わねーのか？｣

｢･･･歌え、ないです｣

13｢歌えない？さっきまで歌ってたろ？｣

｢き、聴いてたんですか？｣

13｢バッチリ｣

そう言うとギョッとした表情で見てくる