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大貴「あいつ、いつもあんな感じ？」
A「うん、割と。」
大貴「おまえあんなしょっちゅう山田の名前出されてるわけ？」
A「まぁ、翼には話してないから、知らないわけだし…。」
大貴「…さっきも一緒にここ来る途中さ、あいつ通り過ぎるヤツみんなに声かけてて。あー、めんどくせーなって思った。」
A「はは、大ちゃん、正直すぎるよ。」
床が、すごく遠いところにあるように見えた。
どんなに伸ばしても着けないくらい、
すごくすごく遠いところに。
其処にある自分の足が、
居場所を探して彷徨ってるようにも見える。
俯いて、顔を上げる力もなかった私の頭を、大ちゃんがぽんぽんと撫でた。
それからお腹にぽすんと寄せて、ほらみろ俺いい男だろー、なんてケラケラ笑いながらそっと抱き包んでくれた。
ぶら下がって落ちそうだった涙がツ、と流れ、
膝の上にぼたりと落ちた。
A「……、」
音もなく涙はぽたぽたと降って、
狭い保健室の白いカーテンの中。
充満する涙声を抑える術をもう私は持ち合わせていなくて、泣きじゃくる私をずっと撫でてくれる目の前の大ちゃんだけが、今の私の支えだった。
『A』
…その場所にいなくて、本当に良かったと思う。
あいつの声で作られるその名前は、
もう思い出の中にしかない。
だから今の私が、
冷静に聞き入れられるわけがないんだ。
私の中にこびりつく、
声や匂いや空気が、
いつまでも私を追い詰めて、
もう、どうにかなってしまいそうで。
振り払っても消えやしないあいつの触れた感触を、それでも擦って引っ掻いて剥ぎ取りたくて、
でも、
『A、』
眩しいフラッシュのようにバチバチ、と蘇る。
頭の中で笑ってその名を呼ぶあいつは、
今も消えてくれないまま。
.
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作者名：環
| 作成日時：2018年7月8日 10時
