2人の短いお話 その5

手に入れたら痛くて ページ41

「う…゛頭いてえ」





目を覚ますと、そこには見慣れた天井が広がっていて、俺は何故か自分の布団で寝ている。

あれ…確か、俺、店にいたような？





「あ、起きた？」
「…え？ガヤ？」
「もー、ここまで運ぶの大変だったんだからね」





はい、水。とベットに腰かけながらコップを渡してきたのは、まぎれもなくガヤ本人だった。

失恋した！！、と大号泣していたのも覚えているけれど、失恋の原因である張本人が目の前に居る理由は全く覚えていない。





「あ、りがとう…？」
「うん、頭痛い？薬もあるけど、何かお腹に入れてからにする？」
「え…あ、うん、大丈夫」
「お味噌汁温めて来るね。シャワー浴びな」






いつものように、何事も無かったかのように日常を進めようとするガヤに違和感を覚える。
ガヤから渡された水を一口含んで、違和感を抱えたままシャワーへ向かった。

熱いシャワーを浴びながらも、昨日の自分が何をしでかしてしまったのか思い出せない。


…俺、何したんだ？


奥二重が少し腫れぼったかった事に気付かないほど、二日酔いは酷くなかった。





＿＿＿＿





「じゃあ、俺バイト行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」




シャワーからあがると、ガヤは身支度を既に整えていて、バイトに行くのを玄関まで見送ろうと着いていった。




「ふは、顔むくんでるよ」
「まじ？大分すっきりしたつもりなんだけど」
「今日休みで良かったね」




じゃあ、行ってきます。
そう言って軽くおでこにキスを落とされて、ドアは閉まった。




「はあ…」






時系列はよく分からないけれど、きっとガヤと北山は関係を持ったと思う。

何となく分かる。
店で話してる2人の空気感とか…俺と体を重ねる回数が少なくなったこととか。

それなのに俺の部屋に必ず帰って来るガヤに、俺は安心する一方でどんどん不安に陥って行った。


俺だけだ、って言ったじゃん。
そんな恋人みたいなあさましい嫉妬心すら湧いてくる。


付き合っても居ないのに勝手に一人で失恋した俺は、憂さ晴らしをしたくて、横尾さんと二階堂を誘ったというのに。





「何で泣いてたんだよ…」





俺が泣かせた？



そのたった一言すら聞けない自分にもイライラしてきた。

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