2人の短いお話 その5

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藤ヶ谷なんか嫌いだ。
あんな奴、忘れてやる。


そう強く誓ってからの俺の行動は早かった。

藤ヶ谷が休みの日を狙って店に行き、店長に辞めたい、という意思を伝えた。あまりにも身勝手な俺の退職希望に、店長は何故か楽しそうに笑っていた。


本当は誰にも言わないでひっそりと辞めて行くつもりだったんだけれど、このバイトを紹介してくれた二階堂にだけは伝えておこうと思った。

大学も一緒の二階堂を連れて、空きコマに2人で近くのカフェに入った。





「え゛っ！？ミツ、バイト辞めたの！？」
「ちょ！きったねえな！」





目を丸くして、飲んでいたアイスコーヒーを吹き出された。
これ以上騒ぎ立てられる前に、まあ、落ち着けよ、と紙ナプキンを投げつける。





「正しくは違う店舗に異動だけどな」
「ん？どういうこと？」
「新しい店舗出すんだって。だからそっちのオープニングスタッフとして働くことになった」





店長から言われた言葉はあまりにも優しくて、頭が上がらなかった。


“辞めたい、っていうか、ここの店舗じゃなければ良いんでしょ。
今度新しい店出すからさ、そこでオープニングスタッフとして働くのはどう？多分北山くんの住んでる所からそんなに遠くないでしょ”


何て優しいんだ、店長…っ！
目頭が思わず熱くなりながらも、勢いよく首を縦に振った。






「でも…ミツ居なくなっちゃうの寂しいなあ」
「後さ、異動すること誰にも言わないで欲しいんだ」
「えー？何で！？送別会やろうよ」
「いい、頼むから内緒にしてて」





俺が笑いもせずそう頼むと、二階堂はシュン…として分かったと小さく頷いてくれた。




ここまで徹底する必要あるのかな。
自分でもそう思ったけれど、SNSのアカウントも全部消した。

例え藤ヶ谷が去る者を追わなくても、俺は追ってしまう。

藤ヶ谷とシフトが一緒の度に俺は思い出して辛くなるし、また連絡が来ないかと淡い期待を抱いてしまうから。






「ね、悩みあるなら何でも言って？」
「ふは、ありがと」
「だって、ここ最近ずーっとガヤがべったりだったから。友達盗られた気分だった」





ちょっと照れ臭そうに笑う二階堂に、胸が温かくなった。





「じゃ、合コンしよーぜ！」
「ええ？急展開過ぎない？」
「良いの。失恋の傷は新しい恋で癒したいのー」
「待って、いつの間に失恋してたの！？」






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