2人の短いお話 その2

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藤ヶ谷を拾って、もう何十年が過ぎただろうか。

深い森の奥でひっそりと2人で暮らしながら、いまだに俺は契約を結べずにいた。



「北山さん、ご飯食べましょ」
「おう」




人の姿の藤ヶ谷は、黒猫の時の気品あふれる姿と同じように、すっと涼しげな目元に鼻筋の通った眉目麗しい姿になる。

そして何故か俺よりも身長が高くなる。




「うまぁ…」
「口の横、付いてますよ」
「ん」




唇を突き出すと、ソースを拭われた。

何だろう。このジェントルマン。
俺よりもうんと年下のはずだし、猫の姿の時は可愛いのに、人間の姿になるとやたらと男前になる。




「ねえ、北山さん」
「ん？」
「何で、俺と契約結んでくれないんですか？」
「もー、だから。俺が弱いからだ、って言ってるじゃん」




最近やけにこの話題に触れてくる。


契約を結ぶと、術者と同じ魔力を帯びるため、黒猫である藤ヶ谷の存在をこの世界に色濃く映してしまう。それに対し、契約していない動物は、魔力の大小に関わらずただの生き物の匂いしか分からない。

だからこの人里離れた森の奥に、藤ヶ谷を隠しているのだ。





「…俺が、怖いんですか？」
「え？」
「いつか俺が貴方を襲ってしまうのが、怖いんですか？」




澄んだその瞳で見られたら、俺の心など読まれているのだろうけれど、藤ヶ谷はどうやら俺の言葉が欲しいらしい。



「…そんなんじゃねえよ」
「じゃあ、どうして？」



使い魔の魔力が術者よりも大きい場合、使い魔は術者の魂を乗っ取ることが出来る。

そんなのは怖くない。
藤ヶ谷に乗っ取られるなら、本望だ。
こんな魂くれてやる。


俺は弱い。
黒猫を使い魔にするのに相応しい魔法使いじゃない。
もし藤ヶ谷を狙って襲われたとして、俺はお前を守ることが出来ない。


…でも。
もうお前が他の誰かのものになるのはもっと嫌だ。

だから、俺は強くなりたい。

お前を守れるくらい強くなりたい。





「…っ、」





俺がそう言い終えると、藤ヶ谷はいつの間にか黒猫の姿に戻っていて、魔法円の中にいた。




「ふじがや…っ！」
「…ごめんなさい。もう我慢できません」




魔法円から藤ヶ谷を取り出そうとすると、バチッ！と強力な魔力に弾かれる。ちっ、と舌打ちをするも、藤ヶ谷は綺麗な声で詠唱を始めた。

詠唱を言い終えると、俺の体に、藤ヶ谷の魔力が共鳴したのが分かった。




「勝手に契約結ぶ使い魔って、お前…」
「だって」





早く、貴方のものになりたかったから

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