過ぎ去った春 ページ36
『春』の番外編
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「ガヤさーん」
ポンポン、と少しだけ丸まった背中を叩くと、彼は本の海から顔を浮かせた。
「あれ、ごめん、気付かなかった」
「ううん、今帰って来た。
ただいま」
おかえり、と栞を丁寧に本に挟んで、そこに広がる世界と暫しの別れを告げた彼のその横顔の美しさに、俺はいつも胸を躍らされる。
「今日、何読んでたの?」
「この前取り寄せたシェイクスピアだよ」
「あれ、何か洋書ブームだね」
シェイクスピア、と口に出してこんなに絵になるのは、彼しかいないと思う。
「玉森も今度何か読む?これとか読みやすいと思うよ」
ほら、と恋人から本を受け取った。
英語で取引する部署にいるため、それなりに英語は出来るものの、洋書どころか本自体を全く読まない。
「んんー、遠慮しとく。それよりさ、」
お風呂、一緒に入ろ。
そう彼の耳元で囁けば一気に耳まで真っ赤に染まるから、その従順さに頬が緩んだ。
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付き合って4年半の月日が過ぎた。
その日は別に何てことの無い日だったけれど、こんな日の方が驚いてくれるかな、とソファでいつものように本を読む彼に、とあるブランドのキーケースを渡した。
「…え?何これ」
わー、何そのくりくりした目。
可愛い。
「んー、頑張ってるガヤさんにプレゼント」
「頑張ってる?何が?」
何のことかさっぱり分からないようで、本を置いて、キーケースを手に取った。
そしてキーケース以外の重みに、彼は、ピタ、と動きを止めた。
「…」
「…がや、さん?」
あまりにも沈黙を貫くので不安になって声を掛けると、眼鏡の奥の瞳が真っ赤に染まって、ぽろぽろと涙が零れ落ちてきた。
「わ、泣かないで?、大丈夫っ?」
慌てて涙を拭おうと手を顔に近づけると、その手をすくい取られて、彼の唇がぶつかった。
「…っ」
珍しい積極的なキスはちょっとだけしょっぱくて、これには俺も驚いて固まってしまった。
「これ、…っ、あ、俺、その」
「うん。ごめん、驚かせすぎた。そんな泣かないで」
あんまりにも泣くガヤさんが可愛くて、ぎゅー、とそのまま抱きしめてあげると、嗚咽が止まらないようで、鼻に軽くキスを落とした。
「一緒に住まない?」
ずるいかな。
一緒に住もう、とか、一緒に住んで、とか。
そういう言葉じゃなくて、あえて君に選択して欲しいと願う俺は、ずるいのかな。
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たいちゃんらぶ(プロフ) - ・・にジーン( ;∀;)あぁぁぁ‥好きです・・ゆびわに気づいたたいぴ・・いつか!!!待ってます(*´σー`)エヘヘ (2018年11月17日 19時) (レス) id: 0f3cc9e55e (このIDを非表示/違反報告)
たいちゃんらぶ(プロフ) - ( ̄m ̄〃)ぷぷっ!っと愛おしいし‥会社のエースなのにガヤさんと離れるのやだー(´;ω;`)と潰れるガヤさんにゾッコン(←)な玉ちゃんが大好きです♪サプライズに鳩になるたいぴ可愛い♪俺の胸に飛び込んでおいで!って本気な玉ちゃんにwwやっと絞り出したおかえり (2018年11月17日 19時) (レス) id: 0f3cc9e55e (このIDを非表示/違反報告)
たいちゃんらぶ(プロフ) - 遠かった春・・( *´艸`)私‥夜布団の中で目が覚めた時更新チェック・・ついしちゃうんですが‥「春」シリーズだ!!! と思うとどんなに眠くっても起きて見ちゃう(`・ω・´)ゞきたやまくんの言葉に真っ赤になっちゃうガヤさんはホント可愛いし‥玉北ちゃんの飲み会は (2018年11月17日 19時) (レス) id: 0f3cc9e55e (このIDを非表示/違反報告)
たいちゃんらぶ(プロフ) - 君が壊れる日・・いつもは光の中に身を置いているようなみっくん・・だからこその抱える闇なのかも(´;ω;`)ウッ…なんて思ってしまいました。でもそれを見逃さないたいぴが隣にいるなら…涙。ふえーん( ;∀;)… (2018年11月17日 19時) (レス) id: 0f3cc9e55e (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - 北斗さん» コメントありがとうございます! 春シリーズ好評頂けて嬉しいです( ;∀;)! この2人と北山さんことはこれからも書いていこうと思っております!また是非読んで頂ければ嬉しいです! (2018年11月16日 1時) (レス) id: 05aff8376d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:魚 | 作成日時:2018年9月14日 22時