2人の短いお話 その2

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藤ヶ谷先生は窓の外の夕日を眺めた。




「両思いになってから、初めて恋人と会って。
次会えるのはいつか分からない、って考えてみて。

そんなのすぐに会いたくなるだろ。
あの人の全部が知りたい、って欲深くなる。

こんなに会えないのが切ないなら、出逢わなければ良かった。

そんな激しい思慕が募った一首だよ」





まるで先生が実際に誰かを想っているような錯覚に陥った。

夕日に照らされたその横顔があんまりにも切なく見えて、何故か泣きそうになる。





「じゃあ先生は？これくらい好きだ、って思える人いるんすか？」





唐突にぶつけた質問に、ふふ、と鼻で笑って俺らを横目で見た。





「いる、って言ったらどーすんの」





甘い香りだけ残して、藤ヶ谷先生は早く帰れよ、と教室を出て行った。






______





「意外と早かったな」




職員室にプリントを提出しにいくと、ミツはにこにこ、と人懐っこい笑顔で受け取った。
机にプリントを広げて丸付けを進めていくと、ミツの赤ペンが途中で止まった。




「お、ここ迷わなかったんだ？」
「あ、そこは…」




藤ヶ谷先生に教えて貰いました。



そう言うと、心なしかミツが動揺したように見えた。







「へえ、そっか」





あ、また違和感。
授業中に感じた違和感が再び蘇ってくる。





「ミツは、その歌みたいな相手いるの？」
「はあ？…教えるかばぁか」






ふと何気なく思いついた質問を口にすると、ミツは何かを隠すように答えた。



ねえ、ミツ。
耳が赤いよ？







_____






「えっ、ミツって藤ヶ谷先生の教え子なの？」





ある日の昼休みに、そんな女子の声が飛んできた。

ミツがこの高校の出身であるとは知っていたし、5,6年前まで在籍していたのだから、藤ヶ谷先生以外にもたくさんミツを教えた先生は他にもいるはずだ。

そんなに驚くことだろうか。




「ミツの小論文の添削とか、全部藤ヶ谷先生の指導だったんだって。
毎日放課後通ってたらしいよ」
「へえ〜！だから仲良いんだ？
たまに一緒に帰ってるところ見るもんね」







藤ヶ谷先生の高級車の助手席に小さく座るミツを俺も一度見たことがある。

そしてミツは、確か北海道の国立大学に進学したはずだった。




「あ…」




なんだ、そう言うことか。



こんなに会えないのが切ないなら、
出逢わなければ良かったのに。



あの時藤ヶ谷先生が見つめていたのは、夕日なんかじゃなくて、きっと恋人だったんだろうか。

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