2人の短いお話 その2

紐 ページ21

もしもし？ミツ？
太輔がやばいことになってるから迎えにきて？




シャワーも浴びて、さて晩酌。
と、言った何と絶妙なタイミングでかかったお呼び出し。




やばい、とは文字通りやばいのだろう。


酒癖の悪い恋人を迎えにパーカーを羽織った。





_____





「んふ、けーんとっ」
「わ、まじで、ガヤさん近い近い！」




チュウっ、と吸い付くようなキスを千賀にする色男、いや今はただの酔っ払いに誰も手を付けられなくなっていた。

手を付けられない、というよりかは止めようとすると今度は自分が餌食になってしまうので、放置するしか無いのだ。





「ンン〜っ！！」
「ん、…ふふっ、健永の唇気持ちいいねぇ」





キス魔と化したガヤの今夜の餌食となった千賀はもはや放心状態だ。


ガヤがキス魔に変貌を遂げた直後に、連絡をとる横尾さんの姿を見たから、そろそろお迎えが来るだろう。




「あれ、タマ、何か寂しそうな顔してるねぇ？」
「げ！無理無理！うわ！」





ぼーっとしながら半分までグラスを飲み干していると、とろん、と溶けた目のガヤが近付いて来た。





「久しぶりに、ちゅーしよ？」





語尾にハートを飛ばしながらも、ガッシリと掴んでくるその力は紛れもなく男で、背筋がざわざわする。





「ん、んっ、っふ」
「っ、…ンっ」






抵抗むなしくガヤの唇が押し付けられる。

てか何で酔っ払ってるのにこんなにキスは上手いわけ？！

酸素が奪われ朦朧としていく中、咥内に侵入してくる舌を受け入れるしか無い。






ガラリ



「おー、今日はタマがターゲットなわけ？」




個室の引き戸が開く音と、呑気な声が耳に入った。
そしてガヤの唇があっという間に離れていく。




「んぐっ…！く、苦しい！」
「ほら、変態キス魔野郎。帰るぞ」





キス魔にようやく天罰が下った。


ガヤのシャツの首元を後ろからグイグイ引っ張り、躊躇いなく引きずっていたのは、ミツだった。





「悪いな、迷惑かけた」
「ちょ、し、死ぬって！」
「あ？何？」




呻き声にミツがパッと手を離すと、そのまま地面にぐえっ、とキス魔は潰れた。





「お前財布どこ？帰んぞ」
「うう…そこぉ」




指差す鞄から、ミツは当たり前のように財布を取り出し、多過ぎるくらいの札を抜いた。




「え、みっちゃん多いよ」
「ん？財布すっからかんにしてやった」
「はは…ご愁傷様」




ほら行くぞ、と問答無用に担がれるガヤに、いつも俺らは少しだけ同情する。

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